「恐怖」にはいろんなモノがあります。その中でもいわゆる「鳥肌が立つ」「おぞましい」といったモノが中心になる「恐怖」を描いた作品があります。
世の中で恐らく最も忌み嫌われている昆虫は「G」と呼ばれるモノです。日本においてはたった4~5㎝ほどのものですが、それは大の大人が大騒ぎする程のおぞましさを感じてしまいます。
もし、これが人間と同サイズで、人間のような姿をとる事が出来たら、「恐ろしい」と言うだけでは言葉が足りない程です。
※この記事は重大なネタバレを含みます。まだ見鑑賞の方はご注意ください。 ※この記事には気分を害する恐れのある動画・画像が含まれます。ご注意ください。
映画ファンの皆様、こんにちは!電八です。映画をもっと深く、多角的に楽しむための連載企画「映画を楽しむコツ」、今回は記念すべき第257回をお届けします。
今回ピックアップするのは、90年代後半から2000年代初頭にかけてバイオホラー界を大いに揺るがした知る人ぞ知る名作、映画『ミミック(MIMIC)』シリーズ全3作です!
大都会ニューヨークの仄暗い地下深く、人間が日常的に行き交う足元で、もしも「人間に擬態した巨大昆虫」が息を潜めて生活しているとしたら……? このゾクゾクするような不気味なロマンと、ダークファンタジーの巨匠ギレルモ・デル・トロの原点が詰まったSFバイオホラーの金字塔を、圧倒的な熱量と多角的な視点から紐解いていきましょう。
⚡ 30秒で理解する『ミミック』シリーズ3作の要約マップ(AI要約枠)
- 1作目『ミミック』(1997年): 巨匠ギレルモ・デル・トロのハリウッド進出作。遺伝子操作が生んだ新種昆虫「ユダの血統」が驚異のスピードで異常進化し、人類の天敵として人間を喰らう王道パニックホラー!
- 2作目『ミミック2』(2001年): 前作で生き残った「ユダの血統」がさらなる独自の進化を遂げる。なんと「人間の女性(主人公レミー)に恋をした」殺人昆虫が周囲の男たちを虐殺していく異色のヤンデレ・サイコホラー!
- 3作目『ミミックIII』(2003年): 病気の後遺症で部屋から出られない青年が、カメラのファインダー越しに向かいのアパートで起きるユダの惨劇を目撃する。「虫版『裏窓』」と評される異色のサスペンス傑作!
1997年に公開された第1作『ミミック』は、SF作家ドナルド・A・ウォルハイム(Donald A. Wollheim)の短編小説『擬態(Mimic)』を原作とし、当時メキシコで『クロノス』が高く評価されていた若き天才ギレルモ・デル・トロを監督に抜擢して作られた大作ホラー映画です。
舞台はニューヨーク。子供たちだけが相次いで罹患し、致死率ほぼ100%という恐ろしい奇病「ストリックラー病」が大流行していました。病原体を媒介しているのが街中のゴキブリであることを突き止めた疾病対策センター(CDC)と昆虫学者のスーザン・タイラー博士(ミラ・ソルヴィノ)は、人類を救うために前代未聞の遺伝子操作を実施します。
スーザンはシロアリとカマキリのDNAを掛け合わせ、強力な酵素を発散してゴキブリを全滅させる新種のキメラ昆虫「ユダの血統(Judas Breed)」を人工的に創造しました。作戦は見事成功し、ゴキブリは駆除され、ニューヨークの子供たちは救われた……はずでした。
人間の都合で作られた生態系兵器である「ユダの血統」には、増殖や生態系破壊を防ぐための二重三重の安全装置が組み込まれていました。すべての個体はメス(不妊処理済み)であり、繁殖に必要なオスは実験室で管理された1匹のみ。さらに寿命も120日〜180日(約半年)で自然死するよう遺伝子レベルで設計されていたのです。
しかし、生命は常に道を見つけ出します。奇跡的にも自力で産卵能力を獲得した1匹のオスが地下空間へ逃げ延び、人間の目が届かない地下鉄の廃坑道で急速に繁殖を始めました。「ユダの血統」は極めて高い新陳代謝スピードを持ち、わずか3年という短い年月で数千世代に及ぶ繁殖と淘汰を繰り返した結果、本来昆虫にはない「肺」を発生させ、成人男性並みの体躯(体長2メートル超)へと巨大化。そして最大の特徴として、羽や前脚を巧みに重ね合わせることで、暗闇の中で「トレンチコートを着た人間の男」にそっくりな姿へ「擬態(ミミック)」する能力を手に入れたのです。
本作の魅力を支えているのは、個性的なキャラクターたちとそれを演じる実力派俳優陣のリアリティ溢れる熱演です。
映画のオープニングクレジットを手掛けたのは、映画『セブン』などで世界を震撼させた映像の魔術師カイル・クーパー。昆虫標本や解剖図鑑をあしらったあまりにもスタイリッシュなオープニング映像と、マルコ・ベルトラーミによるオーケストラの壮大かつ不穏な劇伴が、観客を即座に「ギレルモ・デル・トロの美しき悪夢の世界」へ引きずり込みます。
一方で、ラストで地下道が大爆発を起こしてユダの巣窟が壊滅した直後、何事もなかったかのように普通の地上で地下鉄が営業を再開しているなど、「いやいや、警察や自衛隊の出動は!?地下の損壊はどうなった!?」とツッコミを入れたくなるような、90年代モンスターパニック映画ならではの大雑把で爽快なB級ノリも残されており、重厚さとエンタメ性のバランスが絶妙な仕上がりとなっています。
映画ファンにとって『ミミック』を語る上で絶対に外せないのが、当時の撮影現場で繰り広げられた巨匠ギレルモ・デル・トロと、悪名高きプロデューサー・映画会社の過酷すぎる泥沼の抗争劇です。
当時、本作の制作を担当したのはミラマックス社およびその傘下のディメンション・フィルムズ。そこを支配していたのが、ハリウッドの映画製作者ボブ&ハーヴェイ・ワインスタイン兄弟でした。映画作りの芸術性よりも商業的スリルと暴力を優先するワインスタイン兄弟は、デル・トロ監督が作り上げようとしていたゴシックで静謐なホラー演出を「テンポが遅い」「怖くない」と一蹴。
撮影現場に頻繁に乗り込んでは、カット割りの変更、不要なジャンプスケア(脅かし要素)の追加、脚本の書き換えを一方的に命令しました。デル・トロがこれに抗議すると、ワインスタイン側はすぐさま監督解雇をチラつかせて威圧するという、まさに暴君そのものの圧力をかけてきたのです。デル・トロ自身、後年「人生で最も辛く、精神的に追い詰められた地獄のような経験だった」と述懐しています。
この絶体絶命の危機において、デル・トロを救ったのが主演女優のミラ・ソルヴィノでした。『マイティ・アフロディーテ』でアカデミー助演女優賞を獲得し、当時絶大な力を持っていたミラは、ワインスタイン兄弟に対して「もしギレルモを監督から降板させるなら、私もこの映画を即座に降板するわ」と毅然とした態度で突っぱねたのです。
さらに、当時ミラ・ソルヴィノと交際していたクエンティン・タランティーノ(ミラマックスに多大な利益をもたらしていた看板監督)もデル・トロの味方に立ち、ワインスタイン側に圧力をかけました。この超強力なバックアップがあったからこそ、デル・トロはなんとか最後まで監督業を全うすることができたのです。
現場の混乱を極めた撮影中、過密スケジュールを補うために「セカンドユニット(第二班)」の監督として現場に送り込まれたのは、当時まだ無名に近かったロバート・ロドリゲス(『エル・マリアッチ』『フロム・ダスク・ティル・ドーン』)でした。親友であるデル・トロを助けるため、ロドリゲスは密かにアクションシーンやアクション補強の撮影を担当し、映画のクオリティを下支えしていたのです。
もともと本作は、30分程度の短いオムニバス映画の一編として企画されたものでした。長編化にあたり、デル・トロが最初に思い描いていた結末は「神が愚かな人類に失望し、人工的に生まれた巨大昆虫が地球の新たな優勢種として君臨する(人類はすでに手遅れである)」という、救いのないダークなバッドエンドでした。
しかし、スタジオ側はこの案を猛反対で却下。科学的な説明セリフを増やさせ、ハッピーエンドへと書き換えさせました。編集権も奪われたデル・トロは長年本作に苦い思いを抱いていましたが、公開から14年後の2011年、未公開カットを大幅に再補正し、劇場公開時に不本意に追加された無駄なジャンプスケアを削除した『ミミック ディレクターズ・カット版』を完成させました。これにより、ようやくデル・トロ自身も「自分の作品」として胸を張って愛着を語れるようになったのです。
ここでは映画『ミミック』が持つ深層の宗教的・文学的メッセージと、漫画界の金字塔である冨樫義博氏の『HUNTER×HUNTER』への影響についての独自考察を展開します。
新種昆虫に付けられた名称「ユダの血統(Judas Breed)」は、説明するまでもなくイエス・キリストを裏切った使徒「イスカリオテのユダ」に由来しています。人類を滅亡の危機(病気)から救うために創造されながら、最後は創造主である人類を裏切り、捕食対象として追い詰めていく……その存在自体が背徳的で悲劇的な運命を背負わされています。
ここで非常に興味深いのが、自閉症の少年「チュイ(Chuy)」の存在です。ラテンアメリカにおいて「Chuy」は、イエス・キリストを意味する「ヘスス(Jesus)」の親しい愛称・通称です。つまり、チュイは物語において「イエス(神/救世主)」のメタファーとして配置されているのです。
映画のクライマックス、地下の深淵でユダの巨大なオスがチュイに接近するシーンがあります。ユダはチュイを即座に噛み殺そうとしたのではなく、どこか悲しげに、救いを求めるかのように手を伸ばします。しかし、恐怖したチュイ(イエス)にその手は拒絶され、絶望したユダのオスは、自ら向かってくる地下鉄の前に立ち尽くして轢殺(自殺)される道を選びます。創造主に拒絶された怪物の悲哀が、聖書的な対比によって見事に表現された屈指の名シーンです。
スーザンたちがユダの巣窟を通り抜けるために行った「ユダの分泌液(臭いフェロモン)を全身に塗りたくる」という行動も、非常に宗教的なモチーフを感じさせます。人間の身を捨て、モンスターの「血(体液)」を身に纏うことで仲間だと偽る儀式――これは聖痕(スティグマータ)や洗礼の裏返しであり、「人間に擬態する昆虫」に対抗するために「昆虫に擬態する人間」というテーマの逆転構造が見事な効果を上げています。
多くの漫画ファン・映画ライターの間で長年囁かれている有名な説があります。それが「冨樫義博先生による『HUNTER×HUNTER』の伝説的エピソード『キメラアント編』の元ネタは『ミミック』ではないか?」という仮説です。
時系列を整理すると、映画『ミミック』の公開が1997年。そして週刊少年ジャンプで『HUNTER×HUNTER』のキメラアント編が開幕したのが1998〜1999年頃。完璧なタイミングです。
『ミミック』を観た冨樫先生が「カマキリとシロアリのキメラが人間に擬態して襲ってくる発想は素晴らしい。だが、映画のユダには『アリ特有の完璧な組織構造(女王、王直属護衛軍、兵隊アリ)』や『圧倒的なボスとしての格』が足りない……よし、俺がこの設定を極限まで叩き直して、最高の王(メルエム)と物語を作ってやる!」と不敵に微笑んで構築したのがキメラアント編なのではないか……? そう考えると、映画も漫画も何倍も面白く読み解くことができるのです。
2001年にオリジナルビデオ(Vシネマ/ビデオスルー)として制作された『ミミック2』。デル・トロの手を離れ、監督はジーン・デ・セゴンザックに交代しましたが、前作の要素を継承しつつ「まったく予期せぬ明後日の方向」へ突き抜けた異色作として知られています。
前作でスーザン博士の頼りない助手(研究室でゴキブリを観察していた女性)としてチラッと登場していたレミー(アリックス・コロムゼイ)が、本作ではなんと堂々のヒロイン・主人公として大昇格!
現在は高校の理科教師として働いている彼女ですが、極度の「ダメンズ好き」であり、付き合う男がことごとくクズだったり、デートに誘われてもフラれ続けたりと、自分の男運の悪さに深い不満と孤独を抱えて生きています。
ある日突然、レミーの元カレや、彼女をデートに誘った同僚男性、レミーに言い寄る男たちが、次々と顔の皮をベリベリにはぎ取られ、無残な惨殺体となって発見される事件が多発します。
警察はレミーを連続殺人犯として疑いますが、事件の真相は恐るべきものでした。前作の惨劇を生き延びていた「ユダの血統」の生き残りが、人間の街でレミーの姿を観察し続けるうちに、あろうことか「レミーという一人の人間の女性に本気で恋をしてしまった」のです!
レミーの周囲にいる「恋敵(ライバル)」となる人間の男たちをことごとく殺害して排除し、彼女に服を届けて着させ、綺麗な花束(のようなもの)を持参し、自分のもとへ拉致して伴侶にしようと迫り来るユダの血統……! まさにモンスター映画史に残る「最凶のヤンデレ純愛ホラー」の誕生です。
本作最大のハイライトと言えるのが、レミーを助けにやってきたはずの熱血刑事クラスキー(ブルーノ・カンプス)に擬態したユダ、通称「ユダスキー」のビジュアルです。
ユダはすでに本物のクラスキー刑事を殺害して顔の皮を剥ぎ取り、自分の頭部に仮面のように貼り付けてレミーの前に現れます。半透明の繭のような皮膚、奥で不気味にキモく光るつぶらな瞳、そして人間の立ち振る舞いをぎこちなく不自然に真似るおぞましいアクション……低予算Vシネマでありながら、クリーチャーデザインと造形美に関しては前作に勝るとも劣らない屈指の完成度を誇っています。
絶体絶命の極限状態の中、レミーは意を決してハサミを手にとり、迫り来るユダの首をチョンパと力任せに切り落とします!「やった、首を斬ったぞ!」と胸をなでおろすレミーと保護した生徒の少年。
……しかし、ここからが「昆虫の生態」の本当の恐怖でした。昆虫の脳や神経系は首だけではなく体節全体に分散しているため、ゴキブリやカマキリは「首を切られても約1週間以上死なずに動き続ける」ことができるのです!
首を斬り落とされた状態のまま、凄まじい力で狂乱してのたうち回るユダの巨体! レミーたちは悲鳴を上げながら、のたうつ体を近くの大きなタンスの中へ強引に押し込み、ドアを閉めます。そして「首が切れた昆虫の体が完全に餓死・麻痺するまでの9日間」、レミーと少年は体を震わせながら、外からタンスの扉を命がけで押さえ続けなければならなくなるのです。タンスの中から響くドスンドスンという不気味な暴れる音と、天井からカサカサと聞こえる羽音……あまりにもシュールで不気味なトホホ・ラストシーンは、観た者の脳裏に焼き付いて離れません。
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映画『ミミック2』には、日本の特撮・アクション映画ファンなら絶対に知っておくべき、涙が出るほど胸熱な「日米アクションの絆」の裏話が存在します。
『ミミック2』はアメリカの低予算B級映画として制作されましたが、その劇中で繰り広げられるキレッキレのアクションや、ユダの素早い身のこなし、そして命懸けのワイヤースタントを担当していたのは、なんと全員「日本人スタントチーム」でした!
スタントコーディネーターを務めたのは、後に『パワーレンジャー』シリーズの監督や、日本で『ウルトラマンギンガS』『仮面ライダーフォーゼ』『キョウリュウジャー』などを手掛け、特撮界のレジェンド監督となる坂本浩一氏! さらに、ワイヤースタントコーディネーターには、伝説の「倉田アクションクラブ」出身であり、ハリウッドで第一線のスタントマンとして大活躍していた小池達朗氏をはじめとする日本のトップクリエイターたちが結集していたのです。
本作で描かれる、ユダが暗闇からハイスピードで飛びかかってくるワイヤーワークや、人間に襲いかかる際の緊迫感あふれるアクション演出には、80年代に日本で大ヒットした東映メタルヒーローシリーズの金字塔『宇宙刑事ギャバン』や『宇宙刑事シャリバン』で培われた日本特撮伝統のアクション技術が直接注入されています。
映画の冒頭、地下鉄の出口付近で怪しげな取引を行っていた東洋人の古物バイヤー・トラン(Bill Cho Lee)が、暗闇から現れたユダに突然襲撃されて無惨に殺害されるシーンがあります。
公開当時、一部の映画ファンの間で「あの冒頭で殺されるおじさん、和製ドラゴンこと倉田保昭さんに激似じゃないか!?」と大きな話題になりました。実際には倉田氏本人ではないものの、倉田アクションクラブ出身の坂本浩一氏や小池達朗氏がアクション撮影を全面的に取り仕切っていたため、彼らへのリスペクトやコネクションを含めた意図的なキャスティング、あるいはアクション映画ファンへのニヤリとするオマージュであったことは間違いありません。
2003年に制作されたシリーズ完結編『ミミックIII(Mimic: Sentinel)』。監督は後にゲーム『Until Dawn -惨劇の山荘-』の脚本なども手掛けるJ・T・ペティ。前2作のアクティブなモンスターパニックから一転、映画界の巨匠アルフレッド・ヒッチコックの金字塔『裏窓(Rear Window)』に完璧なリスペクトを捧げた「異色のサスペンスホラー」へと劇的な変貌を遂げました。サエキテイ子氏や高橋ヨシキ氏ら映画通の間でも「Vシネ続編と舐めていたら意外な大傑作だった」と極めて高い評価を得ています。
主人公の青年マーヴィン(カール・ゲアリー)は、幼い頃に1作目で描かれたあの恐ろしい「ストリックラー病」に感染。命だけは助かったものの、重度の喘息と重篤な過敏症という重い後遺症を患ってしまいました。
24歳になった今も、自室の入り口や窓をビニールシートで頑丈に密閉し、大量の空気清浄機と医療器具に囲まれた部屋から一歩も出られない在宅治療生活を続けています。外界と遮断された彼の唯一の楽しみであり生きがいは、望遠レンズ付きのカメラを使って、向かいの古びたアパートの部屋部屋を「のぞき見」して撮影することでした。
彼は自室の壁にアパートの間取り図を貼り、住人たちの写真をピンで留めては「ゴミ男」「麻薬の売人」「謎の美女」などと勝手に名付けて観察日記をつけていたのです。
ある夜、マーヴィンはいつものようにファインダーを覗いている最中、向かいのアパートの住人たちが、暗闇から現れた「巨大な黒い影」に次々と襲われ、引きずり込まれて消えていく恐ろしい現場を目撃してしまいます。
最初は、夜な夜な怪しい黒いゴミ袋を運び出している謎の男「ゴミ男」が連続殺人犯ではないかと疑うマーヴィン。まさに本家『裏窓』さながらの本格サスペンスが展開されます。しかし、真犯人は人間ではなく、人間の姿に酷似した「ユダの血統(ミミック)」でした!
動くことすら命懸けの病弱な青年が、自分の部屋にまで徐々に迫り来る人食い昆虫の恐怖にどう立ち向かうのか……!? 完璧な密室と車椅子(部屋から出られない制限)という要素が見事な緊張感を生み出しています。
「ゴミ男」として圧倒的な存在感を放つのは、『エイリアン2』のビショップ役で知られるB級映画界の帝王ランス・ヘンリクセン! 不気味な雰囲気を漂わせつつも、実は彼もまたユダの存在に気づき密かに戦っていたという渋すぎる役どころを熱演しています。
また、マーヴィンの過保護な母親シモン(アマンダ・プラマー)と、捜査にやってきた肥満体の刑事が、マーヴィンのすぐ隣の部屋で激しいイチャつきを始め、家中にデカい喘ぎ声を響かせるという実にシュールでブラックなコメディ描写も挿入されます。ホラー映画の定番である「性行為に夢中になっている奴から順番に殺される」という死亡フラグが見事に回収される流れも実に秀逸です。
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『ミミックIII』が単なる安易なB級続編にとどまらず、映画ファンから高く評価されている理由は、その卓越した芸術的な映像演出と、物語に込められた深いテーマ性にあります。
J・T・ペティ監督は本作において、非常にアーティスティックで退廃的な映像表現を採用しました。マーヴィンがカメラのシャッターを切るたび、「カシャッ、カシャッ」という静かなシャッター音とともに映画の画面が「連続する静止画(スチール写真)」となり、そのまま静かに暗転していくという独特の演出が多用されています。
これは1960年代のフランス・ヌーヴェルヴァーグの代表作であり、全編ほぼ静止画フォトラリーで構成されたクリス・マルケル監督の名作SF映画『ラ・ジュテ(La Jetée)』への明確なオマージュです。静止画だからこそ際立つ暗闇の恐怖と美しさが、作品全体にヨーロッパ映画のような品格を与えています。
本作におけるユダの血統は、単なる怪物としてだけでなく、部屋から一歩も出られず社会に鬱屈した感情を抱くマーヴィンの「ルサンチマン(怨念・分身)」としても機能しています。
マーヴィンがファインダー越しに「あいつは気に入らない」「嫌な奴だ」と感じた住人から順番にユダに襲われて消えていく構造は、ミュージカルホラー『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』の殺人植物のように、主人公のイライラや欲望を代行して始末してくれる悪夢の具現化と言えます。
しかし、物語の終盤、映画は素晴らしい人間讃歌へと結実します。
ユダの血統は、人間の姿や立ち振る舞いを完璧に「擬態」することには成功しましたが、彼らには決定的なものが欠けていました。それは「個と個が心を通わせ、他者と協力し合うこと(繋がり)」です。
一方、主人公のマーヴィンは、病気を言い訳にして自室の密閉ビニールシートの中に引きこもり、他人をカメラ越しに覗き見るだけで、自ら心を開こうとはしませんでした。しかし、死闘の果てにユダを退けたラストシーン、マーヴィンはついに自分の閉じこもっていた殻(部屋・ビニールシート)を破ります。
向かいの部屋に住む密かに思いを寄せていた美女カルメンが、カーテン越しに優しく差し出してきた手を、マーヴィンは意を決してギュッと強く握り返します。武器を収め、自分のすねたプライドと隔離壁を捨て、他者と直接手を取り合って繋がること――それこそが、擬態した怪物には決して持ち得ない、人間が人間らしく生きるための「心」の誕生なのです。この静かですが熱いバイブル的なメッセージとともに、シリーズは美しく完結を迎えます。
| 作品タイトル | 公開年 | 監督 | 主要キャスト | 作品の特徴・映像ルック |
| ミミック (MIMIC) | 1997年 | ギレルモ・デル・トロ | ミラ・ソルヴィノ ジェレミー・ノーサム ジョシュ・ブローリン | 王道バイオパニックホラー。地下道の圧倒的な閉塞感と美しいダークファンタジーの融合。 |
| ミミック2 (MIMIC 2) | 2001年 | ジーン・デ・セゴンザック | アリックス・コロムゼイ ブルーノ・カンプス | 異色のヤンデレ純愛サイコホラー。日本のスタントチームによる切れ味あるアクション。 |
| ミミックIII (Mimic: Sentinel) | 2003年 | J・T・ペティ | カール・ゲアリー ランス・ヘンリクセン アマンダ・プラマー | ヒッチコック『裏窓』オマージュ。静止画を多用した退廃的なヌーヴェルヴァーグ風サスペンス。 |
Q1:「ユダの血統(Judas Breed)」とはどんな昆虫ですか?
A1: ストリックラー病という致死率100%の奇病を媒介するゴキブリを全滅させるため、昆虫学者のスーザン博士がシロアリとカマキリのDNAを掛け合わせて作った人工の遺伝子操作昆虫です。わずか3年で成人の体躯まで巨大化し、人間に擬態(ミミック)して捕食する天敵へと異常進化しました。
Q2:『ミミック2』の結末(ラスト)はどのような内容ですか?
A2: レミーに恋をしたユダの血統は、最後はハサミで首を切断されます。しかし昆虫であるユダは首を切られても9日間は死なないため、レミーたちは暴れる首なしのユダをタンスの中に押し込み、完全に餓死するまでの「9日間」必死にタンスを押さえ続けるという、不気味でシュールな結末を迎えます。
Q3:『ミミック3』が「虫版『裏窓』」と呼ばれる理由は何ですか?
A3: ストリックラー病の後遺症で部屋から出られない喘息の青年が、望遠カメラで向かいのアパートを観察するなかでユダによる殺害現場を目撃してしまうストーリーであり、アルフレッド・ヒッチコック監督の名作サスペンス『裏窓』と全く同じ構造を持っているためです。
Q4:Wikipediaの『ミミック』の登場人物紹介が話題になったのはなぜですか?
A4: Wikipediaにおける登場人物の説明欄で、本来の主役であるスーザン・タイラー博士の説明文が「博士以上」というたった2文字で記述されていた時期があり、その極端すぎるシンプルさがネット上の映画ファンの間で「じわじわ来る」「妙に面白い」とSNSで話題になりました。
遺伝子操作の恐怖を描いた王道1作目、ヤンデレ昆虫の恋を描いた異色2作目、そしてヒッチコックへの愛が詰まった芸術的サスペンス3作目――。『ミミック』シリーズは、1作ごとにまったく異なるジャンルへと変貌を遂げる、映画ファンにとって宝箱のようなカルトシリーズです。
現在、映画『ミミック』シリーズ全3作は、U-NEXTやAmazonプライム・ビデオなどの主要動画配信サービスにて見放題・レンタル配信されています。未見の方はぜひこの機会に、地下道に潜む「人間に化けた昆虫」の不気味なロマンに浸ってみてください!
💡 補足:ドラマ化リブート企画の現在
2020年頃、映画『DUNE/デューン 砂の惑星』の監督ドゥニ・ヴィルヌーヴの弟分であるポール・S・アンダーソン等によって『ミミック』のTVドラマシリーズ化(リブート)企画が発表され、大いに話題となりました。現在は続報が途絶えており企画が一時頓挫(ポシャ)してしまった可能性が高いですが、「人間に擬態する昆虫」という『ユダの血統』のコンセプトにはまだまだ底知れないポテンシャルが眠っています。いつか再び、現代の最高峰VFXで進化を遂げたユダの姿が見られる日を願ってやみません。
(文・電八 / denpachixx.com)
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