文字通りダークなヴィランの「モービウス」を観ました。
なんか、意外と酷評が多いんですよねー。
ん~、おもしろかったんだけどなぁ~。
※この記事にはネタバレが含まれます。ご注意ください。
2022年公開、ダニエル・エスピノーサ監督作品。
マーベルコミックスのスパイダーマンと戦うヴィランをメインキャラクターにした作品。
吸血鬼がモチーフになっています。
幼少の頃より、体が不自由で苦労し続けたモービウスとマイロ。
頭脳明晰なモービウスは優秀な医学博士に、マイロは大金を稼ぐ実業家に育っていた。
モービウスはコウモリの細胞を基にしたキメラ細胞で製造された血清を開発。
自ら射つと吸血鬼のようになってしまった。
人を殺してしまったことに罪悪感を覚えるモービウス。
またマイロもモービウスに無断で血清を自らに射ち吸血鬼化。
当然のように生き血を求めて人を殺して回るマイロ。
ふたりは互いを必要とするも反発してしまう。
今回の映画は実は性質の異なる2つのものが相対するのがテーマのひとつになっています。
外に出られたモービウスと内に閉じ込められ続けたマイロ
マイロの祈りを救ったモービウスと彼を財力で支援・ケツ拭きをするマイロ。
学術的才能で賞をとるモービウスと金儲けの才能によって内にこもり、モービウスの研究の手助けを行うマイロ。
彼らは不自由な体を持つという点では共通だが、性質がまったく正反対です。
モービウスはブルー(人工血液)を開発して賞を受賞します。
覚醒後、血を欲するようになったモービウスはブルーで渇きを癒します。
しかしブルーで自分を保っていたり、能力を維持する効果は使うたびに時間が短くなっていってしまいます。
逆にレッド(人の生き血)能力を長時間持続させる代わりに人間の理性よりも獣性を色濃く呼び覚ます効果があります。
一緒に研究を行ってきたマルティーヌと恋愛関係になったモービウス。
恋愛を経験したことのない(本で読んだことはある)マイロ。
二人の間には相克的な関係が出来てしまいます。
罪悪感から愛する者を守ろうとするモービウス。
マイロは自由のために何十年もの間、理解し面倒を見てきてくれた医師エミールを殺してしまいます。
そしてマイロは嫉妬からマルティーヌも手にかけて、モービウスを「真の理解者」として手に入れようとします。
人間の生き血が食料である、吸血鬼化したふたりは人間を殺さなければ生きていけない。
人間もまた多種多様な命を奪ったうえで生きていますが、吸血鬼化した彼らはさらに上位の存在となります。
これが原罪(宿命的に絶対に逃れられない罪)です。
しかもモービウスとマイロは人間の生き血でのみ生きながらえることが出来るわけです。
だからこそ「人間の命を奪い食して何が悪いのか?」と罪悪感がまったくないマイロは、モービウスに問います。
それは分かっていますが、モービウスには罪悪感が強く、マイロを止めようとします。
敢えて自由ではなく自制しようとするモービウスに対し、「1時間でも体が自由だったら何をしたい?」と言っていたマイロは自由を謳歌します。
まるで今までの不自由な人生に怒りを爆発させるように、自由に固執します。
逆にモービウスは罪悪感から自らの生も、愛情にも枷を架してしまいます。
一時的にでも自由になり、自由を謳歌するマイロと、責任を押し付けたり人を殺してしまったことによる罪悪感でがんじがらめになるモービウス。
しかしモービウスはマイロを止めるには自分の全能力を使わなければならないと悟ります。
戦いに巻き込まれマルティーヌは瀕死の重傷を負ってしまいます。
モービウスは息を引き取ってしまったマルティーヌの生き血を吸い、マイロに対抗する力を得ます。
彼を支配しているのは愛情からくる罪悪感、絶望、憎悪、そして怒りです。
いわゆるモービウスの闇堕ちの瞬間です。
これ以降、モービウスはめいいっぱいの能力を覚醒・解放させます。
海外ではなぜかけっこうな酷評を受けています。
結果、ツイッターなどでミーム化されてめちゃくちゃチャカされています。
ざっくり訳すと「今作の良かったところは、彼がIt’s Morbin’ Time !と叫ぶところだ」となります。
もちろん、本編にはそんなシーンもセリフもありません。
元ネタは「パワーレンジャー」の変身シーンでの「It’s Morphin Time !」から来ています。
ほかにも存在しないシーンをあたかも存在したようなことにするツイートなどがバズっています。
今作はSONY’S SPIDER-MAN UNIVERSE(ソニーズスパイダーマンユニバース)略してSSUの作品です。
SSU作品は「ヴェノム」「ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ」に今作の「モービウス」で3作品となります。
もともとスパイダーマンに対するヴィランであるモービウスですが、SSUでは「スパイダーマン」がいません。
そのためヴェノムもスパイダーマン由来の能力がない状態で描かれています。
しかし実はMCU(マーベルシネマティックユニバース)作品である「スパイダーマン:ノーウェイホーム」で「ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ」につながりがある描かれ方をされています。
とりあえず今作ではSSU作品ということで「I am Venom」のセリフがありました。
それとラストMCUの「スパイダーマン:ホームカミング」に登場したヴィラン・ヴァルチャーであるエイドリアン・トゥームスが登場します。
「スパイダーマン:ノーウェイホーム」と「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」などでユニバースが繋がりあってしまう描写があり、ほかのユニバースのキャラクターが津城するようになりました。
今作でも夜空に紫色の空間の割れ目のようなものが描かれ、その後ヴァルチャーが登場しています。
「モービウス」もゆくゆくはMCUのスパイダーマンと対決するようになるのかもしれません。
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さて、作品を楽しんでみるためのポイントについては以上です。
ここからは作品についての個人的な感想です。
この映画はスパイダーマンのヴィランが生まれるまでのお話なんです。
そういう目線で観た時に、すでに「吸血鬼モノ」でやったくだりを繰り返しているのは少し物足りなさを覚えます。
ただ、映像のすばらしさで補って余りあるほどです。
吸血鬼的な能力の見せ方や、身体から黒い霧のようなものがチリチリと立ち昇っているのもかっこいいですよね。
人工血液を飲んだ場合は覚醒状態が短くなってしまうというのも、ヒリヒリ感があってよかったと思います。
人工血液だけでは限界があっていずれ人の生き血を摂らないとならなくなるっていう絶望感や理性を保つための緊張感です。
これってダイエットとか食事制限している時に少し似ている気がする。
食べちゃならない食材を食べる=その場は楽になるけどそれまでの我慢が無駄になる。
血液の味についての言及が全くないのが、少し不満の残るところですが。
吸血鬼映画だと、「動物の血は美味くない」とか「通常の料理は吐き出すほどまずい」とかよくあるんですが、人工血液でも生き血でも味については何のセリフもありませんでした。
ダイエット中に暴食してしまったら、今まで我慢してた分、食べ物が美味に感じられます。
美味ならば美味なほどに、コントロールできない自分に絶望します。
ダイエットでも結構な自己嫌悪になるくらいですから、モービウスがラストに感じた快感と絶望はとんでもなく甘美でしょう。
そして深く絶望したことで自分の半生を呪い、留まることを知らないほどに噴き出す怒りに身を任してしまうのはさらに快感だと思います。
闇堕ちは人間としての絶望ですが、深ければ深いほどより甘美な快感の奔流でしょう。
マルティーヌの生き血を吸ったモービウスが覚醒するシーンとその後のド派手な能力を使った戦闘シーンがきっもちいいのはそのためなんでしょうね~♪