今回紹介するのは「機動警察パトレイバー the Movie」。
ひさしぶりに観ました。
アニメ版の「パトレイバー」シリーズの中では自分的に一番好きな作品です。
※この記事ではネタバレを多分に含んでいます。本作をご覧になられていない方はご注意ください。
1989年に公開された劇場版アニメーション作品。
押井守監督の出世作とも言える作品。
また原作にヘッドギアと記載がありますが、これは「機動警察パトレイバー」という作品のために編成されたグループの名称です。メンバーは以下
と、いずれもそれぞれの分野の有名人で、非常に豪華な顔ぶれです。
それぞれがそれぞれで同じ作品を担当する事があり、交流があったために声を掛け合ったようです。
そもそもの「機動警察パトレイバー」というメディアミクス展開された作品群全体が基本設定を同一にしてあります。
すべての作品がロボット(レイバー)と警察官のサスペンス&コメディ作品になっています。
非常にリアリティ溢れるレイバーの設定・描写が緻密で、物語に引き込まれます。
例えば、「レイバー」はあくまでもブルドーザーやパワーショベルなどの作業機械の位置づけで「特殊車両」という分類になっています。
つまり操縦するのには特殊免許が必要で、講習や実習がある設定となっています。
だから主人公たちが属するのが「警視庁警備部特科車両二課中隊」、作中では略して「特車二課」なわけです。
「警備部特科車両中隊=パトロールレイバー」で略して「パトレイバー」なんです。
実はこれ一番最初のOVA作品やマンガにも冒頭で説明するシーンがあります。
特車二課は南雲隊長率いる第一小隊と主人公たち属する後藤隊長率いる第二小隊があります。
本作では彼らの居留地は架空の東京湾の埋め立て地に設けられた棟屋となっていてます。警視庁からかなりの距離があり、ここに配属されるのはある意味島流し的な感じです。
彼らは休憩時に釣りをしてみたり、畑の世話をしてみたり、食料などの買い出しに出たりなどなんとものどかな雰囲気で描かれます。
1988年当時の東京の街並みをモチーフに描かれているので、非常に懐かしく情緒ある雰囲気に引き込まれてしまいます。
今作の自殺してしまった天才プログラマーの容疑者・帆場暎一の足取りを松井刑事が追っていくシーンは特に古めかしくて情緒たっぷりに描かれています。開発地域になっているような廃墟で、窓から都内の主な高層建築街が見えるところばかりです。
2階建ての木造アパートで誰も住まなくなってから何年も放って置かれてボロボロになっています。
またシゲさんの下宿先も立て看板の木造住宅で1階店舗兼大家住居で2階を間借りしています。下から声かければ全然聞こえてしまう、家族のような距離感です。
昔はお金のない学生がよくこんな住居に下宿していました。
他にも古めかしい水路(恐らくお茶の水から秋葉原辺りの神田川)やその周辺、さらに取り壊されて床面のタイルと一部の洗い場だけが残った銭湯とか。
とにかく現在、もうほとんど見る事の出来なくなってきた景色が多く描かれています。
また公開当時は世相的にレインボーブリッジや横浜ベイブリッジはまだ着工したばかりだったり、工事中だったので、遊馬が言う「ハープ橋」は葛飾ハープ橋の事でしょう。
プルトップ式の缶飲料が出て来ます。この頃は現在使われているプルタブ式の缶飲料は発売されていませんでした。なので作中描かれるのはプルトップ式と言う訳です。
パソコンにしても当時最新式メディアのMO(光磁気)ディスクが描かれていたり、その頃はまだ薄型テレビやモニターはなかったので、モニターはブラウン管式だったり、いや、懐かしいのなんの(笑)
房総半島の先から三浦半島の先まで巨大な横断道路を兼ねた堤防で繋げて、東京湾内の海水を水門より排出し、大部分を干拓して用地として活用するという計画。
この設定のすごいところはこの計画が環境保護団体や漁業関係者からの強い反対を受けたという事になっているんですね。
環境に与える影響や負荷が大きいというのもそうなんですが、該当海域はいわゆる江戸前と呼ばれる漁場でこの計画が進むという事は江戸前が無くなる事を意味するわけです。
そりゃ、強い反対にあうに決まっています。やっぱりリアリティありますよね。
環境破壊や江戸前という日本人に重要な文化をなくしてまでこの計画が進められたのにもちゃんと理由が設定されています。
作中の日本では1995年に都心部での直下型の大地震が起きてしまったという事になっています。ここからの復興事業も兼ねているというのが非常に大きなウェイトを占めています。
レイバーを使用しての作業でないと出来ない事業なのでレイバーが売れてメーカーは潤います。
またたくさんの作業員が必要なので雇用需要が高まり、失業率を下げる事も出来ます。
しかも、地震によって出来た大量のガレキ処理も兼ねています。
一石三鳥の大国家事業なわけです。
人々は生き残るために環境がどうの、文化がどうの、というのをやめたわけです。
つまり彼らはいずれ本場の江戸前寿司を食べることが出来なくなるということです。
まあ、そのプロジェクトの要である、レイバー用巨大プラットホーム「方舟」を破壊してしまったのでだいぶ期間が長引くことになった様子ですが。
またこの設定は実際に1980年代から始まった土地バブルによる影響が大きいです。そのおかげで基本的にこの作品は全体的に好景気な雰囲気が各所に描かれます。
今作の音楽担当は川井憲次。
気だるい不思議な感じの少し不安感をあおるBGMで帆場暎一関連のシーンを何とも言えない雰囲気になっています。
逆に主人公たちが出動するシーンやラスト~スタッフロールで流れる曲はポップでフットワーク軽いノリのいい曲になっています。
シーンごとに緩急付けた感じで全体的に飽きずにワクワクしながら観れるような音楽になっています。
まずバビロンプロジェクト。
バビロンは旧約聖書に出てくる都市のことで、非常に栄えて天に届く「バベルの塔」を建設するも神の怒りに触れて破壊されてしまったという伝説があります。
神にも追いすがる勢いの都市を建設するという事にちなんで命名されています。
今作の、事件の中心人物の帆場暎一はイニシャルにすると「E.HOBA」でそのままの読みでエホバをニックネームにしています。
エホバは旧約聖書の神様の事です。
この神の名前は正しくはヤーウェまたはヤハウェと発音するのが正しいというシーンがでます。
レイバー専用プラットホームの通称「方舟」ももちろん旧約聖書のノアの箱舟にちなんでいます。
しかも方舟の解体シーンは最後中心の柱部分が残って、塔のようになります。これは「バベルの塔」に見立てていて嵐の中で倒壊します。
冒頭シーンで方舟の中を遊馬と野明が見ている時に「まるで巨人の国だな」と遊馬がいいます。旧約聖書ではネフィリムという人と神の子で英雄が出て来ます。その中に巨人の一族が出てくるのですが、彼らは互いを共食いして滅んでしまった事になっています。
劇中では方舟=巨人の国の中でレイバー(巨人)同士が戦い合います。