夏と言えば「ホラー」です!
怖いお話で暑い夏を涼しく過ごしましょう!
という事とで今回はホラー映画の中でもいまだにその怖さや物語性、そして大きな影響力を持った作品であの「貞子」が登場する「リング」を語っていきたいと思います。
※注意:この記事にはネタバレが多分に含まれています。作品をご覧になっていない方にはオススメできません。
1991年発行のベストセラー鈴木光司原作「リング」の1998年公開の映画化作品。
原作から設定などを少々変更を加えた中田秀夫監督作品。
松嶋菜々子、真田広之、中谷美紀、竹内結子、佐藤仁美などが出演。
のちに「リング」シリーズとして、メディアミクス展開され、シリーズ化されていきました。
ちまたに勃発する原因不明の突然死。呪いが込められたビデオテープの存在の噂は、都市の人々の間に急速に広まっていった。テレビ局に勤める浅川玲子は、取材中にそのビデオテープを観てしまう・・・。
Filmarksより引用
この作品は今までのホラー作品との違いは、「怨念」や「幽霊・怪物」などの直接的な怖さを描くのではなく、いわゆる都市伝説から始まる調査をサスペンス的に見せていく手法です。
主人公が記者、一緒に調査するのが数学者というリアルなアプローチで科学的に理詰めで追っていくと貞子に行きつくという見せ方をしています。
そして、もちろん科学的には有り得ない「呪い」やその原因などに近づいていくのですが、あくまで科学的なアプローチを崩そうとしてないのでSF的な要素がしっかりと表現されています。
現実的に起こりうる恐怖を想起させるつくりになっているんですね。
原作が発表された当初は、時代的にバブルが弾け不景気になっていく不安感が渦巻いている時代でした。
さらに昔に比べ生活のすべてが機械に侵食されていくことに対して、どことなく不安を感じていた時代でした。
それは同じものが大量に生産されるという事が機械だけでなく生物にも行われたら、恐ろしいことになるという恐怖も含まれていました。
「らせん」で最終的に増殖した貞子だけの世界に作り変えてしまう事を目指していることが分かるのですが、これは「新世紀エヴァンゲリオン」でも描かれている「人類補完計画」にも似た世界観です。
時代的に生活が機械に侵食されていく不安や、みんなが常識という同じことをしなくてはならないのに、逆に他人を蹴落としていかなければ生き残れない世の中で、他人がとの関わりがどんどん希薄になっていくことへの恐怖を払拭するためには、全員がひとつになるような世界がもとめらていたのかもしれません。
「貞子」はそんな恐怖を象徴しているのかもしれません。
上記でも書きましたが、最終的に「らせん」で明かされるのですが、貞子は増殖して世界を貞子だけの世界に作り変えてしまうことを目指しています。
そのために、ウイルスが分裂して増殖するように、増殖するためにVHSテープに念写された「呪いのビデオ」を使って増殖するのです。
謎の突然死がニュースになり、「呪いのビデオ」が都市伝説(当時は都市伝説という言葉はなかった)として噂がひろがり、ダビングされることにより増殖してきます。
そして、ウイルスしても感染し、さらに話題になることで活字などのメディアを利用して爆発的に増殖することを目指します。
「ループ」ではこの世界が実は仮想現実でありシミュレーションであるのに、シミュレーションの世界からネットを通じて現実世界に増殖・侵食していくのが描かれます。
それまでのホラーには「呪い」や「怨念」の直接の怖さはあったけれど、ここに気味の悪いものが「増殖」する恐怖という新しいアイディアで描いたのです。
日本には江戸時代から続く伝統的な幽霊像があります。
このうちの「足がない」以外は守ってデザインされたのが貞子です。
そして貞子は自分の怨念をはらすだけでなく、増殖して世界を作り変えていってしまいます。
新しい描かれ方で新しい恐怖を与えることに成功しています。
例えば、画像のカッと見開かれた目ですが、これは白塗りしたスタッフの顔を逆さまにしてカツラをかぶせてアップで撮影したそうです。上下逆なだけでこれだけ不気味になるんですよね~。すごい!
「呪いのビデオ」の呪いから逃れるためには、「1週間以内にダビングしてそのビデオを他の人間に見せる事」がルールとなっています。
これは現在ではDVDやブルーレイディスクになってしまうのですが、これだと怖くもなんともないんですよね。ましてや最近はサブスクが台頭しているのでメディアを手にすること自体が減ってきています。
DVDやブルーレイディスクへのダビングにはコピーの回数制限があります。マスターを含めて10枚までしかダビングできません。
その点、VHSはダビング出来る映像に関しては回数に制限がありません。何度でも、いくつでダビングしてコピーを増やすことが出来ます。
爆発的な勢いで増殖させることが出来るわけです。
知らないうちに莫大な数の「呪いのビデオ」が増殖することになります。これを想像させるパンデミックにも似た恐ろしさもあります。
それから貞子がブラウン管テレビから這い出してくるシーンもすごい恐怖感なのですが、これが薄型テレビでは、なんだか怖くないんですよね。
あの分厚い箱の中に何かいるような、そんな不気味さが恐怖をあおるんですよね。
そして当時はまだ「都市伝説」という言葉は定着していなかったのですが、「口裂け女」や「ツチノコ」などいろんな噂話があったのですが、こういったものと同じような噂話として「呪いのビデオ」を扱ったのは秀逸です。
特に「ノストラダムスの大予言」に象徴される終末思想に不安を煽られていた時代なので、現代でいう「都市伝説」を専門に扱った雑誌の月刊「ムー」、「マヤ」やマンガ「MMR マガジンミステリー調査班」などが大人気でした。
つまり、超常的なその時の科学では説明できない何かに恐怖や不安感を持っていた時代だったんですね。
この作品以前に「女優霊」という作品がある。
やはり、長い黒髪で白ドレスの女性が幽霊として登場する。「Jホラー」の最初の作品と呼ばれています。
そして「リング」とその後公開された「呪怨」は「Jホラー」を世界的に認めさせ定着させた作品と呼ばれています。
しかも「リング」「呪怨」ともに評価が高くハリウッド版「リング」「呪怨」がリメイクされました。
現在、「Jホラー」という作品はもちろんあるのですが、「リング」「呪怨」の2作品を超えるインパクトある作品というのは残念ながらまだ現れていないと思います。
どれだけインパクトがあったかがうかがえるかと思います。
怨霊として登場する「貞子」は物語と関係なく、シリーズ化されたり、キャラクターとしてメディア露出したりと日本における新しい妖怪とか幽霊の代名詞として定着しました。
これはもちろん作家である原作者鈴木光司が書いた原作でも、「リング」と同じ内容の小説が物語内で発売され、「呪いのビデオ」にプラスして「呪いの小説」やその他の形でどんどん増殖していくというのを描いています。
現実世界でも原作鈴木光司の思惑通りなのかは不明ですが、増殖していきます。
「リング」とはかかわりのない作品やキャラクターとして世の中に浸透していっています。
もしかしたら知らないところで「貞子」による世界の浸食が本当に進んでいるのかもしれません。
その後の作品で貞子の設定について言及されていきます。これが分かってるとまた見た時に、「あー!そーゆ―ことか!」と合点がいくことも見つかると思います。
山村貞子は伊豆大島の噴火を予知した超能力者である山村志津子の娘です。
志津子はその超能力ゆえに迫害を受けて亡くなってしまいます。
しかも貞子は原作では非常に美しい両性具有で念じるだけで人が殺せてしまえる強力な超能力の持ち主という事でやはり迫害を受けます。
上京して劇団「飛翔」に入団するも変死事件が相次ぎ、退団して父親の元を訪れる。
しかし結核を患った父親の担当医師長尾城太郎に強姦された挙句、古井戸に突き落とされて殺害されてしまいます。
貞子は井戸から這い出したくて手の爪が剥がれる激痛に耐えながらよじ登ろうとしますが、登れません。
息絶える瞬間まで井戸の底から丸く切り取られた空を見ていました。
迫害され、強姦され、しかもこんなにむごい殺され方をして怨念が募ります。
貞子は超能力者なので怨念を何かに転写することが出来ます。息絶えるまで己の怨念を何かに転写して残そうとします。それが天然痘ウイルスに転写されます。
ウイルスの生物として基本的で絶対的な生存プログラムとして「増殖」と貞子の怨念が合成され、リングウイルスが生まれます。
これが井戸の上に建てられた貸別荘の部屋の中のビデオにさらに転写され「呪いのビデオ」が生み出される訳です。
だから「呪いのビデオ」はダビングさせて数を増やそうするわけです。
この辺りが「リング0 バースデイ」で描かれています。仲間由紀恵が貞子を演じていて、美しいです!
原作の鈴木光司は発表後に知ったと言っていますので、正しくはモチーフではないのかもしれませんが、知っているとより楽しめる情報があります。
作中の登場人物である伊熊平八郎・山村志津子は、明治時代に起こった千里眼事件の関係者の学者・福来友吉と超能力者・御船千鶴子(みふねちづこ)がそのモデルであると言われています。また、その千里眼能力者の中に実在した高橋貞子という女性がいたことも、その関連を想起させるものとして注目されています。
千里眼事件とは三船千鶴子の「千里眼」といういわゆる透視能力・予知能力を科学的に判明させようとした実験が行われ、本物の超能力だと判定されたことが発端となります。
しかし、マスコミはこれを否定して他の千里眼の能力者たちのことも「インチキ」であると否定した記事を書き連ねました。
その記事を読んだ千鶴子は「いくら実験しても無駄です」といって、それから間もなく服毒自殺をしてしまったという一連の事件です。
ちなみに三船千鶴子をモチーフにした作品は他にもたくさんあります。
最後まで読んでいただきありがとうございます。今回の記事は以上となります。
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