久しぶりに「タンポポ」を見る機会があり、懐かしく、またやはり面白く観ました。
自分もラーメン大好きなので、この作品からの影響は結構あります。
残念ながら動画配信サービスでの配信は2023年8/19現在ではないようです。
※注意:この記事にはネタバレが多分に含まれています。作品をご覧になっていない方にはオススメできません。
1985年公開の日本映画。
伊丹十三の脚本・監督による「ラーメンウエスタン」と称したコメディ映画。
「お葬式」で大ヒットしたことを受けての、伊丹十三監督第2作目。
トラック運転手のゴローとガン。ガンの話を聞いてラーメンが食べたくなり、とあるさびれたラーメン屋に入ってみるふたり。
そこで出会った店の女主人タンポポと共にラーメン屋を「行列のできるラーメン屋」を目指して、仲間たちと共にライバル店や嫌がらせなどを乗り越えていく。
ラーメンとは自分にとって、もっとも「グルメチック」な食事だと思います。
何よりも、もうもうと立つ湯気!熱っつ熱つのスープが寒い時でもしっかりと体を温めてくれます。
そして、旨みたっぷりな出汁が効いててとにかく美味。
麺を啜れば、もちもちの歯応えと、ツルツルした喉越し、そしてどしっと腹持ち良くて、一気にひと心地つける。
そして、メンマ、ねぎ、チャーシューなんかが飽きさせないから、どんどん麺とスープを啜り込みたくなる。
そうこうしているうちに、「ぷはーーーっ」とスープを飲み切って大満足。ごちそうさまでした。
って、感じの敷居が低く、マナーだのなんだの細かいこと言わない、老若男女を魅了し続ける食べ物って珍しいと思います。
大好きです。
景気が良くなり、美味しいものを食べられるようになった日本では、いわゆるグルメブームのようなものが起きていました。
訳の分からん作法
ちゃんと理解していないのに知ったかぶる
伊丹十三監督は行きつけの寿司屋の師匠とも仰いでいる寿司職人に
「シャリだ、ギョクだ、と素人がそんな言葉を使うもんじゃない」と諭されたのだそう。
とにかく味わい「美味い!」と楽しんで食べる事が最も重要だという事です。
作法だのマナーだのうるさいこと言ってては味が二の次になってしまいます。それは本末転倒というものだとこの作品ではおふざけありで指摘しています。
伊丹十三監督はデビュー作が「お葬式」のヒットを受けて2作目となる本作「たんぽぽ」を撮影しました。
1作目は「映画を映画たらしめる」ということに全力で取り組んだ結果の大ヒットとなりました。
そこで2作目は「好きなことをやるんだ」という姿勢での撮影となったようです。
上記でも少し書いたのですが、当時はグルメブームとなっていたのですが本質を知らず、見もしないグルメブームに批判的な目を向けています。
さらに映像上の構造として、物語の本筋とは関係ない、「白服の男」のエピソードがなんのつながりも前触れもなく挿入されます。
さらにその他、マナー講座、フランス料理店の重役たちと若手社員などなど、サブストーリーともいうべき短い映像が挿入されます。
不思議と統一感はあるのですが、「好きなことを好きなだけ並べてみました!!」という印象を受けます。
ラストの授乳シーンは「人間が初めてする食事であり、その原点」という事で採用されたそうです。
監督自身が名付けた、この作品のジャンル名です。
いわゆる西部劇形式で語られる、ラーメンについての作品という事です。
だから、登場人物はウエスタンっぽい衣装を着ていたり、台詞をいいます。
ゴローの帽子にスカーフ、ピスケンの恰好、乞食たちの汚れ具合、寂びれた酒場のようなラーメン屋の店内、酔っぱらって絡むピスケンとの喧嘩などなど、ビジュアル面で分かりやすくウエスタンなものもあります。
ウエスタンを意識して、キャラクターたちの名前も基本的にカタカナ表記です。ゴロー、ガン、タンポポ、ピスケンなど。
そして、ストーリーとしても、酒場から始まるところとか、独特の掟とか習わしみたいのが出てくるところとか、個性的な仲間の力を借りて乗り越えていくとことか、敵だと思っていた人間が心強い味方のひとりになるところとか、西部劇と意識したつくりになっているのが分かります。
この物語にはモチーフになった話が存在しています。
東京荻窪の「佐久信」というお店がモチーフとなっています。『愛川欽也の探検レストラン』で「荻窪ラーメン」について紹介された時のストーリーが下地になっているそう。
「佐久信」は荻窪ラーメンで非常に有名な「春木屋」と「丸福」という強力なライバル店に挟まれる場所にあり、非常に苦労したそうです。
ちなみに荻窪ラーメンを見てみると、元々は信州そばを出す店からの転業店が元だった。1948年創業の「丸長」というラーメン屋になる。もともと「信州そば」店だったので「丸長」の「長」は長野県の「長」なんだそう。
この「丸長」から「丸信」、「栄龍軒」、「大勝軒」などがのれん分けされる。そしてさらにつけ麵発祥の店「中野大勝軒」から日本一と言われた「東池袋大勝軒」に繋がっていくんですね。
その後、派生店が集まって「丸長のれん会」を結成している。
さらに京都市中京区壬生相合町に存在したラーメン店「珍元」(2018年8月に閉店)にロケハンで伊丹十三監督と宮本信子が訪れています。外観や調理の様子などを取材したという事です。
つまり荻窪「佐久信」と京都「珍元」の2店舗がモチーフという事です。
この方は多様な肩書をもっていて、大活躍しています。
映画監督、俳優、エッセイスト、雑誌編集長、商業デザイナー、イラストレーター、CMクリエイター、ドキュメンタリー映像作家。料理通と幅広く活動しています。
中でも、CMクリエイターとして優秀で、「ピッカピカの一年生」のCMを製作していました。
特徴的なのが当時ビデオカメラが普及し始めたのですが、まだビデオカメラ映像を使った作品などは非常に少なかった時代です。
そんな中「ピッカピカの一年生」はビデオ映像をほぼそのまま使ってCM製作され、ヒットしたので非常に長い期間、放映され続けました。
また商業デザイナーやドキュメンタリー映像作家などもやっているので、実際的な感覚を持ち合わせていて、世の中の風潮に流されずに表現することが出来る数少ない人物です。
監督のお気に入りの役者がいて、伊丹十三作品には何度も出演します。
もう、個性は揃いです!
まず山崎努が自分は大好きです。この人いい役も悪い役も面白い役もこなすのは当然なんですが、最高に渋いんですよね。最近、こんな感じのゴツくて渋い役者さん少ないですよねー。
そして、宮本信子が若い!可愛い!この作品以降は意外と独特の空気感のある役をよくやってます。しかも安定の演技力でこの人出てくると安心して見てられます。
それから渡辺謙ですねー。この作品中ではまだ若手で全然売れる前なんですよね。まだちょっと棒読みな感じが新鮮です。この頃はその後世界的な俳優ケン・ワタナベとしてハリウッドの大作映画に出演するようになるとは誰も思っていなかったでしょう。
その他の俳優さんたちも全員、個性派で異色な空気感が醸成されています。
電八的にはこの映画の影響は非常に大きかったです。
この映画を観たから、「美味しい物」に対しての見方、考え方が変わりました。
「美味しい物」を「より美味しく食べる」というやり方はあるのだと思います。
しかし、他者からの視線を気にして、縮こまって食べるのでは本末転倒という事に気付かされます。
この映画はラーメンに限らず、「食べる時に邪魔されたくない」、「形骸化したマナーは窮屈」、「無知と知識をひけらかすことの気恥ずかしさ」など「食」に関して出来る限り、快適に美味しく食べるためにはどうすればいいのかという事が問いかけられています。
そして究極の食事の姿として、授乳のシーンで終わっていきます。
授乳は、提供する側も、される側も愛情溢れ、無垢であり、ちゃんと「満足」する事が前提の行為です。
神々しい程の美しさをもってこの作品は終わっていきます。
しかしこの映画は伊丹十三作品として日本での評価はいまいちです。
さらに監督は「グルメブーム」を批判したはずなのに冒頭のラーメンの食べ方を指南するシーンを大真面目にとって「ラーメン道」みたいなことに繋がってしまったことを遺憾に思っていたのではないかと思います。
まあ、確かに自分も影響を受けたひとりなわけですが、現在では自分の好きなラーメンを探すというスタンスとなっています。
それから、その冒頭のシーンで「おもむろに」という言葉を覚えました。
そして有名グルメマンガ「美味しんぼ」も1983年より連載開始されています。面白いのがこの作品も「グルメマンガ」なのですが、「グルメブーム」には批判的だったという事です。
いかに、当時の日本人のグルメや美食に対する考え方が美しくなかったか、という事なんでしょう。
そうはなりたくないなぁ~、と今現在、ラーメンを食べながら考えています。
だから「ラーメン探訪」の記事には専門用語や細かい知識は入れないように、味についての感想を中心にするように気を付けているつもりです。
それから、タンポポのラーメンはオーソドックスな醤油ラーメンなんですが、🍥ナルトがのっているのが個人的にとっても嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。今回の記事は以上となります。
この記事を気に入って頂けましたら幸いです。
また是非、SNSなどでシェアしていただければと思います。