映画を楽しむ上で、映画や映像の構造が分かるとより理解が深まり、楽しみが増えます。
映画が好きだけど、ものすごく評価される映画の何がすごいのか、どこを評価されているのか全く分からないことってありますよね。
自分も以前は全く理解できず、偏った派手に分かり易い映画ばかりを好んでいました。
しかし映像の構造をほんの少し覚えただけでも、抽象的な感情を文学的に表現する映画などでも少しずつ理解できるようになってきました。
この記事を読めば「なんだか分かんない」を解消するためのひとつのヒントになると思います。
という事で、専門用語をかみ砕いて、基本的なカメラワークや手法などについて説明いたします。
カメラワークとは、カメラを動かすことで映像に動きをつけて意味をつけることです。
基本的なものだけおさえましょう。
以上のようにカメラの動かし方には名前がそれぞれついていて、監督がカメラマンに指示をする時にはこれらを細かく指定して支持します。
またカメラマンや撮影監督はそれが物理的に可能かどうか、どうすれば撮影できるのかを考え、必要なものを調達し、撮影に臨みます。
なにやら小難しい言葉が出てきましたが、気負わずに読んでください。
よく聞く言葉だけど具体的に何のことなのか説明できない事が多い言葉です。
なのでよく聞く言葉をおさらいしてみましょう。
言ってみたら、映像の最小単位のことです。一度に撮影した映像の事を指します。
よく映画のメイキング映像などで監督が「よーいアクション!」といって撮影を始め、「はいカット!」で止めますよね。
この間に撮影された映像を「カット」と言います。
文章で言えば、ひとつの文のことです。
それ単体で抜き出して来ても、意味がなく、物語にもならないです。しかしこれを多数くみあわせることで意味を現すようになったり、物語になったりします。
カットを組み合わせて物語のひとつの場面を作ったものをシーンといいます。
例えば、「右向きの怒った男性の顔のアップ」→「左向きの泣いている女性のアップ」→「女性が男性をビンタする」と3つのカットを繋ぐと
男性が何かひどい事を泣いている女性に言ったので、かっとなった女性がビンタするという流れの場面になります。簡単に言えば「男女のケンカ」のシーンとなるわけです。
複数のシーンを繋げればストーリー性が出て来きます。
複数のシーンがつながり、物語の大きな一部分となったものを「章」とか「チャプター」とかいいます。
例えば主人公の生涯を描く物語で主人公の幼少期の部分、青年期の部分、晩年期の部分などと分けた場合、それぞれが「章」「チャプター」です。
「章」や「チャプター」が繋がってひとつの物語になっています。
構図には種類があります。代表的なモノを5つだけ紹介。
客席側から画面や舞台に向かって右側を上手(かみて)、左側を下手(しもて)と言います。
そして、意味が持たされています。いろんな意味がありますが、上手側が上位という事で考えれば分かり易いでしょう。
例としては
などを表します。
映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」ではデロリアンに乗って過去に向かう時は上手から下手に向かっています。(画面右から左へ)
逆に過去から未来へ向かう時にはその逆、下手から上手へと向かっています。
任天堂ゲームソフトの「スーパーマリオブラザーズ」も右側(上手)に向かって冒険していきます。上手に進むにしたがって敵であるモンスターが襲い掛かり、コースの難易度は上がっていき、最終的なボスキャラのクッパが待ち構えています。
これも上手・下手の意味や考え方から来ているんですね。
もうひとつ動画を見ていただきます。「シンゴジラ」の予告編です。ゴジラの向きに注目してください。
ゴジラが単体で街を進んだり、破壊する時には上手から下手を向いていますが、自衛隊のヘリや戦車からの砲撃を受けるシーンでは逆を向いています。
これはすごく強い自衛隊の兵器に対するゴジラを表します。そしてものすごい攻撃を受けてもビクともしないゴジラを映すことで、自衛隊の攻撃よりもさらに強いゴジラというのを逆に際立たせるために敢えて下手から上手を向かせています。
演出としてこういった手法もあります。
ここに、あおりや俯瞰を合わせて画面に意味を持たせていきます。
ワンカットで長時間撮影する手法。リアルタイムで映像が進行するので映画内の時間と観客の時間がシンクロする効果があります。
実体験に近い効果を上げる事ができる手法。
ただし、切れ目がないので時間の移り変わりが表現できなかったり、撮影する上での制約が多い手法でもある。
中には「バードマン」のように長回しのみで1本の作品となっているものもあります。
別々に撮影された、それぞれ一見関係のない映像を繋ぎ合わせて、一つの意味のある映像にする手法。
この手法により映像全体の雰囲気が決まります。
以下は割と分かり易いモンタージュ手法とクレショフ効果についての動画です。
非常に短い時間撮影されたカットをどんどん入れ替えて繋いでいく事によって、せわしない感じや緊張感を煽る手法です。
ひとつの事柄が進行しているときに、また別の事柄が同時に進行している様を表すカット割り。
この動画のシーンはカットバック手法も併せてあるので忙しいのですが、デロリアンのエンジンがかからないと焦るマーティと、その頃時計台によじ登ったドクの様子と同時進行しています。
現在のスト―リーに対して一瞬だけ過去のカットを差し込む手法。
ミステリーや推理小説ものなどではよく使われる手法です。
以下はカットバックとフラッシュバックについての分かり易い動画です。
映像加工して得られる効果のことです。
単色の画面(真っ黒が多い)からだんだん映像が浮かび上がってくる効果のことをフェードインといいます。その逆にだんだん映像が消えていく事をフェードアウトといいます。
その逆にだんだん映像が消えていく事をフェードアウトといいます。
余談ですが恋愛の話の時にだんだんと距離感が離れてしまって結果別れてしまった事を「フェードアウトしてしまった」というのはここからきています。
また、画面がだんだん真っ白にフェードアウトしていくのをホワイトアウトと呼びます。
フェードインとフェードアウトの効果を重ねる事をいいます。映像的にはA映像からB映像にだんだんと入れ替わっていくという効果になります。
ゆるやかに時間が経過したことを表す効果があります。
ただし、乱用すると映像全体がぼやけたイメージになってしまうとこもあります。
映像をゆっくりと見せる技術です。
映画だけでなくスポーツなどでも選手の動きなどをしっかり見るために使われます。
映画ではより印象を強く残したい時に使われます。
映画「マトリックス」で使用され、映画界に新たな手法が生まれたと衝撃が走りました。
「バレット」とは銃弾の意味で、銃弾すらゆっくりに見えるほどキャラクターが素早く動いている様子をスローモーションを組み合わせて表現する手法です。
「マトリックス」では数十台のカメラを演者の周囲に配置して一瞬で連続して撮影を行い、映像を作っていました。
最近はCGを使って撮影しています。
以上で紹介した基本的な映画などで使われる手法や技術などを、ある程度覚えることで評論家の批評や映画好きの人々が話していることも理解できるようになることでしょう。
その上で、今度は自分で用語を使って語ってみるとよいでしょう。
別に人に語ることに固執しなくてもいいです。
映画を記録する時の感想や、SNSなどで用語を使って文章を作ってみるといいでしょう。
もちろん自由に見て、感じてもらえば基本的にはOKです。
ただより深く読み解きたい、何を意味しているのか理解したいと思った時の手掛かりになればと思います。
闇(影)と光を対比させることで、心情などを印象強く描きだします。
例えば、闇の中に明るく輝く星のようなものが現れて、だんだん光の強さを増すような映像があるとします。
闇は絶望や恐怖などを象徴していますが、その中に希望を象徴する光が現れて、だんだん大きくなっていくという意味合いが出てきます。
これは非常に分かり易い例だと思います。
こういった意味合いを光の具合や画面の中の闇(影)の割合であったり、または色の明るさ加減で象徴したりします。
例えば輝くような真っ白な洋装の貴婦人を殺そうと狙う犯罪者は灰色から黒色の服を身にまとって現れたりすることが多い訳です。
何気なく画面に映される絵画や、絵画の一部などにも意味がつけられています。
ただし正しく読み取るのは実に困難です。
だからこそ絵画や絵画からの構図やアングルの引用が何を意味するのか想像するのも楽しみの一つと言えます。
絵画をたくさん観て、絵画も読み解けるとなお楽しめるでしょう。
芸術はどこまでも奥が深いので電八も勉強中です。
映画は作品によっては色自体に意味を持たせている事があります。
例えば、映画「トリコロール」という3部作があります。
「トリコロール」は青・白・赤の「3色」を意味しますが、この映画ではフランス国旗の3色を意味します。
「青の愛」「白の愛」「赤の愛」の3部作で、愛情に関してのドラマなのですが、すれ違いや行き違いを経験する男女の話なのです。
さらに「赤」は「コミュニケーションがとれる愛情」を意味していて青から白、白から赤へと引き継がれます。
さらに劇中何度となく電話器が登場します。電話器はいまひとつコミュニケーションがとれない事を象徴していてます。
それから、SF映画「テネット」では時間の順行と逆行が描かれます。その時に色分けして表しています。
正常な時間経過=順行が赤で逆行が青で表されています。
鏡には手法としての側面と意味としての側面の両方があります。
どちらとして使うかは監督次第なので作品によって違ってきます。
手法としては、演者が鏡に映った人物に目線を向ける事で、区切られた画面の外側にも世界が続いていて、そこに人がいるのだと思わせる事ができます。
つまり観客に画面の中に空間的な広がりを直観させる作用があります。
また、意味としては「夢の世界への入り口」や「迷路」としての意味を持ちます。
オーソン・ウェルズの「上海から来た女」では迷路的な意味を持たせたシーンが印象的で、ブルース・リーがこれをモチーフにしたシーンを「燃えよドラゴン」で使用しています。
このシーンではまさに迷路として描かれていました。
植物、動物、海、大気などいろんな自然物は多種多様な意味を持っていて、撮影時に意識して意味を持たせるようにすることが多いモノです。
例えば「リンゴ」は生命の元を意味します。リンゴを食べる映像は元気を取り戻すシーンなどに使われます。入院しているベッドの患者にリンゴをむいてあげる映像などがそうです。
「月」は女性を表します。神話の時代から月自体が女神としてあがめられています。
「黒いネコ」は不吉な予感を表します。黒いネコが現れた後には何かしらの事件が起こります。
「森」や「水」は死と再生を表します。
「火」は浄化と破壊を意味します。
などなど、いろんなものがいろんな意味を持たされます。
また作品によって持たされる意味が違う事もあります。
映画においては身体をどう撮影するかで観客の世界への没入度が変わってきます。
性的表現である「官能」を表現すると肉体的な「生々しさ」と同時に「生きていることの喜び」を浮き彫りにします。
しかし逆に、「喜び」が自分のモノではないことに絶望します。
「苦痛」の表現は一気に観客と演者が一体化します。「痛み」は「死への恐怖」を感じさせます。
同時に苦痛を受けているのが自分ではないという安心感を得ます。
ホラー映画ではおなじみの表現手法といえるでしょう。
顔をアップで映す時には映った人物の感情を微妙な表情でも感じ取ることが出来ます。
つまりアップで顔を映した映像はその人物の感情を表情だけで読みとらせるように出来ています。
もちろん、映す角度によっても違いが出て来ます。
例えば、怒った表情の人物を俯瞰(ふかん)で撮った場合、怒っている対象に対して何をしでかすのか分からない不安をあおられます。
逆に煽り(あおり)で撮った場合は目下の人間に対し怒っている尊大な態度に見えるでしょう。
表情と構図を組み合わせる事で意味合いが変わってきます。
ちょっと意識するだけでもひとカットごとの意味が分かってきます。
「映画を読む」事ができるようになってくるでしょう。
映像で大切な要素として、効果音や音楽があります。
そのシーンやカットの雰囲気をガラッと変えるだけではなく、意味合いを表すこともよくあります。
例えば、良くない事や不吉な事が起きる直前には雷の音が使われます。実際に雷の映像自体をカットとして入れる事も多いです。
それから、今、映っている映像の裏で起こった不吉な事を表すのに、救急車のサイレンの音が使われることが多いです。
そして音楽も映像の雰囲気作りには必須の要素です。
その曲が映画自体を表すようなテーマ曲や、その場その場の雰囲気を盛り上げるために作られた曲などがあります。
この曲を聞いたら「スターウォーズ」の大冒険を創造してドキドキしますよね。
「スーパーマンのテーマ」も映像が浮かんできますよね。
もちろん有名アーティストが映画のテーマ曲を担当することもあります。
映画「グーニーズ」はシンディ・ローパーが担当しました。(これは完全に電八の好みです)
以上、同じ撮影素材であっても、つなぐ順番やつなぎ方で大きくイメージが変わってきたり、キャラクターの向きや、配置で意味が変わってきます。
象徴的に意味するものを映像に故意に入れる事で「こういうシーンなんですよ」と説明してくれている部分も多分にあります。
より効果的な映像になるように監督をはじめ映画作成スタッフたちは映像を作っていくんですね。
この辺が少しでも読めるとより映画が楽しめるようになると思います。