原題はそのまま「英雄」。この映画、自分の中ではかなり有名な映画のひとつという認識でした。
美しい映像のオンパレードなのにしっかりとしたドラマと史実に基づいた設定のどっしりとした作品です。
是非ご覧になってください。
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※この記事には多分にネタバレが含まれています。作品をご覧になられていない方にはオススメ出来ません。
2002年公開、チャン・イーモウ監督作品。主演はアクションの雄・ジェット・リー。
他にも豪華な顔ぶれで、トニー・レオン、マギー・チャン、チャン・ツィイー、ドニー・イエンとアクションも演技も出来る俳優陣です。
秦の始皇帝が中国全土を統一しつつある頃の設定で、日本で言う処の「羅生門」スタイルで語られる映画となっています。
主人公”無名”は秦の大王暗殺を目論む武術の達人たちを討ち取り、大王の宮殿で法相を受け取る事に。
そして大王に手を焼いていた達人たちをどうやって倒したのかを問われ語り始めます。
とにかく、見事なCGやワイヤーを使ったアクションシーンが見応え抜群なのと、話の筋によって景色や衣装の色が印象的に変わっていくのも美しい。
そしてキャラクターたちの名前がまたいい名前です。
主人公”無名”をジェット・リー
飛雪(流水)をマギー・チャン。
残剣(高山)をトニー・レオン。
長空をドニー・イェン。
如月をチャン・ツィイー。
シーンごとのカラーの変更も見事に美しい効果を発揮しています。とにかく印象に残り易いです。
後で、「赤い衣装の時は”無名”のシナリオ」で、「緑の時は3年前の過去のシーン」でとか、整理しやすくてよかったのもありますが、とにかく美しいです。
そして、切ないストーリーがホントになんとも言えないです。
それぞれのシーンで語られる気持ちの動きはホントにありそうで、心にグッとくるものがあります。
敵討ちと愛情と、すれ違いと、、、、、。
飛雪と残剣の気持ちのすれ違い具合がもう、ホントにせつないです。
”無名”と残剣の水上での戦闘シーンの美しさと言ったらハンパないです。
水中からの撮影されたカットもあるんですが、こんなの始めてみましたよね。
これは昔の中国の衣装がそうだからという事もあると思うのですが、風に良くたなびきます。
そして髪もたなびきます。もうううう、キレイです。
この辺ってアジア人じゃないと分からないセンスじゃないかな~。
たぶん、この剣を構えた姿がカッコいいとか、美しい姿勢だとか、その上で衣装や髪が風にたなびいてるのが美しいとかって、ワビサビも入っている感覚でしょう。
そして、水面に映る逆さ景色も美しく感じる構図とかホントに美しいと思います。
いずれのシーンも美しいのですが、戦闘における妙技の連続したアクションや、雨や木の葉などに強調された想念のイメージ。
そして各シーンを象徴する黒・グレー・赤・黄色・グリーン・水色・白・などの鮮やかで美しい色彩。
リアルな現実を描くのではなく幻想的にキャラクターたちの想念のイメージを強調した世界観を描いています。
現実的にはあり得ないアクション、色彩、間、があるけど、むしろそのおかげで美しく、せつなく、人々の願いや愛情が際立ちます。
この映画に登場するキャラクターの名前がかっこいいんですよね~。
主人公・無名(ウーミン)
残剣(ツァンジェン)は高山(カオルン)と名前を変えて書生になっています。
残剣とともに恋人の飛雪(フェイシエ)も流水(リウシゥ)と名前を変えています。
長空(チャンコン)は槍の名手で、追手の武術家たちと堂々と渡り合っています。
そして如月(ルーユエ)は残剣と飛雪に仕える使用人。
秦が周囲の国々を落とし排し始めた頃の話。
ひとりの田舎役人の”無名”が大王暗殺を狙っている達人、3人を討ち取ったという事で宮殿で報奨を受け取る事になります。
大王は自分の力を持ってしても手こずってしまっている達人たちをどうやって倒したのかと尋ねて来ます。
”無名”は飛雪と残剣が恋仲だが仲違いをしている事突き止めこれを利用して倒したと話します。
が、大王はその話は信じず、”無名”が実は大王を暗殺するための刺客であることを見抜きます。
”無名”は大王に10歩の距離まで近づけば確実に仕留めることが出来る技を身に着けています。3人の達人はをそれを知り、”無名”に暗殺の大事を任せる事にしたと大王は読みます。
しかし、”無名”は残剣だけが殺してはならないと言っていたと話します。
これまで世の中は戦に次ぐ戦でたくさんの人が死んだり苦しんだりして来ています。
これを終わらせる事が出来るのは大王だけだと残剣が言っていた事を話します。
大王は自分を狙っていた敵にこそ、自分の理解者がいたのだと悟ります。
それが分かれば満足と、すでに報奨10歩の距離まで近づいている”無名”に自分の剣を投げ出します。
理解が得られた今、もう未練はないと残剣の残した「剣」と書かれた書を見つめます。
そして残剣の残した剣の極意を悟ります。
「剣は人なり、人は剣なり 手中の草も武器になる。」
「次に到達するのは 手から剣を捨て 心に持つ境地」
「徒手空拳でも心で100歩離れた敵を倒す」
「そして最高境地は 」
「手にも心にも剣のない境地 大きな心ですべてを包む」
「人を殺さず平和を求める」
その時!”無名”の必殺技の”十歩必殺”が!!
しかし”無名”は大王を殺さずに「今悟った境地を忘れないで下さい」と言ってその場を去っていきます。
大王の命を狙った者はもちろん死罪となります。
飛んでくる大量の矢を前に未来を見つめる”無名”。
電八的な想像ではあるのですが、いわゆる「悟り」の境地とは無色無味無臭の非常に味気ないものである気がします。
味気ないがゆえに残剣が悟った境地は、感情を持つ者には理解しがたいものだったのでしょう。
この映画で、感情や欲情などの人の情ではないところに思い至ったのは残剣だけで、その他、大王を含めて登場する者たちは感情や欲情に翻弄されていました。
大王は国を統一するのに「生き残りたい」という欲に。
無明は身分を偽り「敵を討ちたい」という一心で修行して大王の前に。
飛雪もまた、敵討ちを悲願としていました。
如月は残剣、飛雪に付き従う従者としての責務と残剣への淡い思いのはざまで揺れます。
長空は敵討ちもあるが、強き武人として誇り高くあらんとしていました。
皆、一見クールに思いを表には出さずにいるのですが、その内実は熱くドロドロと燃え滾った感情が渦巻いているキャラクターとして描かれています。
そんな中、残剣は自分の中の熱くドロドロした感情を排し理性のみで考えた結果、世の中の平定は大王のみがなし得るという自分にとっても飛雪にとっても耐え難い答えにたどり着いてしまいます。
残剣は飛雪を説得できるはずもないことは承知しています。
愛しているが故に何も言わずに彼女のそばから決して離れずにいました。
この表裏一体の物語がせつないやら、悟りの境地がすごいやら、「渋い!!!!」の一言です。
詫び寂びの世界をと豊かな感情の世界を対比して非常に美しい映像で見せてくれています。
この映画は、芸術的にシーン毎に色で意味を持たせて描く映像の美しさ、完璧に美しいまでに完成されたアクション、そして寓話としても完成度が高い作品だと思います。
残念ながら、この映画は劇場に観に行くのを逃しているんです。劇場で観たかったなぁ~。無理なの分ってるんだけど、IMAXでリメイクしないかなぁ~。。。
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