電八ぶろぐ【映画を楽しむコツ】の200記事目はどの作品にしようか、すごく悩んだのですが『ボルケーノ』にしました。
「意外と知られていない名作」の部類に入るのではないでしょうか。
ではボルケーノ』の解説と共に、感想、楽しむコツを語っていきましょう。
※注意:この記事にはネタバレが多分に含まれています。作品をご覧になっていない方にはオススメできません。
1997年公開のミック・ジャクソン監督作品。
主演のマイク役は『メン・イン・ブラック』シリーズや”宇宙人ジョーンズ”でお馴染みのトミー・リー・ジョーンズ。
相方にはこの頃はまだ新進気鋭のアン・ヘッシュ。
そして、娘役ケリー役は『フィールド・オブ・ドリームス』のカリン役のギャビー・ホフマン。今回は13歳でトラウマを抱える思春期の少女です。
ロサンゼルス──太陽が燦々と降り注ぐ、華やかな大都会。しかしその地底では大自然の強大なエネルギーが想像を絶する驚異の瞬間を迎えようとしていた。奇妙な焼死事件の直後、その悪夢はやってきた。都会のど真ん中で、突如、火山噴火が始まったのだ!
Filmarksより引用
誰もが「あり得ない」と思い込んでいる事が、もしも現実となったなら!?
それはとんでもなく衝撃的な事でしょう。
今作で描かれているのがまさにそれです。
「大都会として発展したロサンゼルスのど真ん中で、もしも火山噴火が起きたら!?」
こんな事、誰も考えもしないで日常を送っているはず。
日本で言ったら、大阪や東京などで火山噴火が起きるという事。
地震に近しい日本人でも街中で噴火が起きるなんて想像すらしていません。
ましてや、アメリカでもヨーロッパでもまったく予想の範疇に入っていない現象でしょう。
あまりの驚愕に衝撃を受けて、動く事も考えることも難しくなってしまうでしょう。
実際の脚本のアイデアは雑誌『サイエンティフィック・アメリカン』に掲載されたロサンゼルスの火山活動の危険性を示唆した記事を元に書かれたのだそうです。
本作の『ボルケーノ』は大自然の驚異を描いたディザスター・ムービーではあるのですが、ビル火災の恐怖を描いた『タワーリング・インフェルノ』の恐怖の描き方を踏襲したつくりです。
特徴的に描かれているものを挙げておきます。
『タワーリング・インフェルノ』では火災が建設された最新鋭のビルで起こり、セキュリティシステムなどがちゃんと働かずにじわじわと人々が追い詰められていきます。
本作も「大都会」で網の目の様に複雑に絡み合ったライフラインや鉄道や道路などの交通、通信、などが街中で起きた噴火によって、まったく機能を失ってしまいます。
パニック・ムービーでは良く描かれる題材です。
逆にこの脆さを浮き彫りにすることで、不自由な中でも生き残るためにたくましくあがき続ける人々が強調されます。
「火」はすべてのものを燃やし尽くしてしまう非常に恐ろしいものであります。
つまり「破壊」の象徴です。
しかももっとも恐ろしいのは自分たちが見ている目の前で大切なものも、そうでないものも全てがジワジワと焼かれて行ってしまうのを為す術なく見ているしかないという事です。
しかも時間と共に広がってどんどん取り返しのつかない状態になっていきます。
この「ジワジワ」追い詰められていく時間こそが、「火」の最大の恐怖であります。
今作においてはもっと、広がっていく様子が生々しくまるで生きているかのように見える溶岩で表現されています。
「実は最も人が怖い」というのを描いた作品が結構あります。
今作でも人の怖さを描いています。
我を通すために他者を押しのけたり、人の訴えを無視したり、いろいろです。
代表的なものを以下に挙げてみました。
アジア系の女性医師ジェイ・カルダーは救急医療でその敏腕さを発揮しているのですが、許嫁でビバリーセンタービルの建設を推し進める恋人ノーマンから、救急医療を止めるように言われています。
そんな中、街中で噴火が起きます。彼女は目の前にいる負傷した人々の手当てをして、負傷者と共に病院に行き、運ばれてくる負傷者などでまるで野戦病院のようになっている中、さらに人々を救おうと全力を注ぎます。
そこにノーマンが彼女を探して現れるのですが、「なんの関係もない負傷者なんか放っておいて、避難しよう」と言われます。
しかも彼は負傷者たちに対して、まるで汚いものを見るような視線を向けます。
彼には特権意識のようなものがあって、「自分と自分の知り合いさえ助かれば、あとは知ったことではない」というような態度です。
冒頭の地下鉄工事に対するデモのシーンでも彼は、住民の訴えをまるで聞く気がありません。
こと、非常時ともなるとその性質は顕著に表に現れます。
女医ジェイは、幻滅すると共に彼との別れを決意します。
非常時である以上、みんなで助け合っていくべき時に、自宅が火事になったからと助けを求めに来た黒人の若者に手錠をかける警官がいます。
人はなぜ、強権を振るいたがるのでしょう?
根深いからこそ、本当に悲しいシーンです。
『タワーリング・インフェルノ』もそうなんですが、天高く付き上げるように建設されたビルは人の傲慢さを表す塔である「バベルの塔」を象徴しています。
「バベルの塔」は思い上がった人間を罰するために神によって雷を落とされて崩壊させられています。焼き払われたと言ってもいいでしょう。
今作の塔は冒頭から登場している建設中のビバリーセンタービルです。
傲慢な人間たちが反対運動が起きているのに耳を貸さずに地下鉄工事を進めビルを完成させようとしています。
『タワーリング・インフェルノ』も今作もともに傲慢さの象徴であるビルは破壊されます。
ただし、今作では完成させる事なく、自ら破壊する事で犠牲を最小限に抑えることに成功しています。
傲慢であってはならないという警告メッセージなのだと思います。
「バベルの塔」にご興味のある方は以下の動画をどうぞ。
今作はたくさんの衝撃的なシーンがありますが、その中でも特に衝撃の強いシーンがあります。
工事現場の責任者であるスタン。地下鉄のトンネルに連絡の取れなくなった車両の乗客を助けに探索に入ります。
彼らが行方不明の車両を発見した時、すでに溶岩がすぐ近くまで迫ってきていました。
急いで、車両から意識のない乗客たちを運び出すのですが、運転士が見つからない事にスタンが気付きます。
なんと、一番溶岩に近い側に運転士は倒れているのを発見、大至急取って返して、彼を担ぎ上げます。
しかしもう、車両の下に溶岩が流れ込み始め車内はすさまじい熱気にゴムなどが溶け出し始めてしまいます。
なんとか、車両の端までたどり着きますが、すでに足元には溶岩が到達していて運転士を担いだままでは飛び超えることは不可能。
スタンは意を決して溶岩の中に飛び降り、何とか運転士を溶岩の向こう側に放り出します。仲間たちが運転士を保護します。
しかしスタンは足から溶けて溶岩の中に燃えながら沈み込んでいきました。人によってはトラウマになってしまうほどの衝撃のシーンでした。
特殊能力などないにもかかわらず、自分を犠牲にしてまで他人を救う、まさにヒーローです。
人が怖いということを書きましたが、逆に人の優しさこそが大事なんだというシーンもあります。
警官が人種差別して、黒人の青年に手錠をかけてしまうのですが、もはや連行することも出来ないという事で手錠を外して解放します。
その場では、多くの消防員、警察官、その他の人々が全員で何とか溶岩の流れを食い止めようとしています。
そんな人々の姿を見て黒人の青年はひとりでも人員が必要なことを悟り、これを成功させれば自分たちの家の方に溶岩が流れて行ってしまうのを防げるという事で手伝いに入ります。
それも手錠をかけた張本人の警官と協力して作業にあたるんですよね。
警官の方も作戦が成功したので、彼の家の方に消防車を向かわせるように依頼の無線を飛ばします。
差別を乗り越え、互いをリスペクトしたいいシーンです。
マイクはビバリーセンタービルを爆破して、溶岩流を運河に流し込み、海へ導く事に成功します。
警官に抱っこされた少年が周囲を見回して言います。
「見て、みんな同じ顔してる」
周囲のみんなの顔を映すカットが続きます。
みんな火山灰と倒壊したビルの塵を被って灰色一色になっています。
そこには職業も、貴賤も、人種も、性別も、関係ない、ただ災害の恐怖を乗り越えた「同じ人間」がそこにいるだけなんですよね。
上記で書いた「バベルの塔」が崩壊して傲慢さがなくなった人類の姿なんでしょう。
汚れているはずなのに、なんだか美しさを感じる名シーンだと思います。
舞台の1つであるウィルシャー通りを再現したセットは長さ400メートル以上にもなったそうです。なかなかの巨大セットです。
この後『マトリックス リローデッド』は2.5㎞におよぶ高速道路の巨大セットを作ったという事で話題になります。
冒頭から登場するビバリーセンタービル。
ラストは溶岩流が娘のケリーがいる病院を飲み込んでしまう恐れが強まります。
そこで溶岩流の流れる方向を変えるために道路に爆薬を仕掛け、溝を掘り、さらに溶岩流をせき止めるためにダムを構築しようとします。
ダムの材料はそこに建つビバリーセンタービル。鉄とコンクリート5万トンを一気にダイナマイトでビル倒壊させてダムにします。
このシーンを見て、「こんな事、実際に出来るわけない」「劇中でも言ってるが、ビル倒壊には複雑な計算が必要であんな短時間で成功させるのは不可能」など批判的な感想が多いようです。
他のシーンでも細かく「あり得ない」部分があるそうです。
そのおかげで「荒唐無稽な作品」と言われてしまう事も多いそうです。
しかし、危機管理の面から対応する動きなどはかなり高評価を得ているらしく、実際に参考にする事も可能だそうです。
今作のヒロイン・エイミー・バーンズ博士を演じた女優アン・ヘッシュについて。
当時はまだ実力はあるが、それほど有名ではない女優さんでした。今作ですでに大御所とも言えるトミー・リー・ジョーンズの相手役をこなし、世界的な知名度を手に入れます。
そしてこの後、『6デイズ/7ナイト』でハリソン・フォードの相手役を掴み一気に世界的女優として認められ、映画の仕事が増えました。
今作公開と同時期に本人がバイセクシャルであることをカミングアウトします。かなり周囲の反対や無理解にさらされていたようですが、勇気を出しての公表でした。
そして2022年8月5日、ロサンゼルスで乗用車を運転中に住宅に突っ込む事故を起こし、意識不明の重体で病院に搬送されてしまいます。
脳死状態となり、臓器提供により延命措置を停止。53歳でした。
まだまだ、これから素晴らしい演技を見せてくれそうな女優さんだったので非常に惜しまれますね。
電八的にはこの作品は大好きな作品です。
DVDが販売されているのを見て、何の迷いもなく手に取ってそのままレジに行き購入してしまいました。
親子、夫婦、恋人、上司と部下、などなど、いろんな人間関係がつぶさに描かれているで、何度も見返して新たな発見があったりします。
そして何より、危機管理に関しての人の動きや考え方は、参考になると思います。
生き残るためには余計なことはせずに、危ない場所から離れることですが、どうしてもそうもいかない事というのもあるのは分かります。
次から次に起こる問題をなんとか解決するために奔走する、マイクの姿がカッコイイです。
最近、日本では南海トラフ地震が話題となり、いろんな影響が出ています。
生き残るために最善の手立てを考えておきましょう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。今回の記事は以上となります。
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