なんだか、日本では「シン・仮面ライダー」がすごく話題になっていたのですが、自分としては「シン・仮面ライダー」は配信で見ることにしてその代わりに「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」を見に行こうと決めました。
先日のアカデミー賞授賞式で7部門受賞という快挙を達成した「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」を観るために休みの日に劇場に行き、IMAXレーザーで鑑賞いたしました。
※注意:この記事にはネタバレが多分に含まれています。作品をご覧になっていない方にはオススメできません。
2023年公開のダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート両監督作品。
二人は特に血縁者とかではないのですが、同じ名前だという事で「ダニエルズ」を名乗っています。
主演はベテランアクション俳優のミシェル・ヨー。エヴリンの夫ウェイモンドには、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(84)や『グーニーズ』(85)で、天才子役として一世を風靡したキー・ホイ・クァン。
マルチバースを題材に家族愛を描いた、SFアクション作品。
アカデミー賞最多10部門受賞。
アジア人が初のアカデミー賞獲得で大きな話題に。
さらにゴールデングローブ賞で主演女優賞、助演男優賞の2部門を受賞しました。
破産寸前のコインランドリーを経営する中国系アメリカ人のエブリン。国税庁の監査官に厳しい追及を受ける彼女は、突然、気の弱い夫・ウェイモンドといくつもの並行世界(マルチバース)にトリップ! 「全宇宙に悪がはびこっている。止められるのは君しかいない」と告げられ、マルチバースに蔓延る悪と戦うべく立ち上がるがー。
Filmarksより引用
11部門ノミネート、10部門受賞という快挙に加え、アジア人初のアカデミー賞獲得という歴史的な作品となりました。
作品賞、監督賞、アカデミー主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、助演女優賞、脚本賞、編集賞、作曲賞、衣装デザイン賞を受賞。
うち主演女優賞はミシェル・ヨー、助演男優賞はキー・ホイ・クアンが受賞しています。
助演女優賞はジェイミー・リー・カーティスとステファニー・スーがそれぞれ受賞。
ミシェル・ヨーは昔からアクションを自分でこなすアクション俳優さんです。
カンフーアクションのキレある動きが素晴らしいのですが、今作でもその素晴らしいアクションを披露してくれています。
というか、すでに60歳の彼女ですが、美しくもあり、その上素晴らしいアクションでも魅せるという、まさにアカデミー賞を受賞するにふさわしい女優さんなのだと思います。
そして、相手役のキー・ホイ・クアンもまたいい動きを見せてくれました。
ブルース・リーやジャッキー・チェンを彷彿とさせる動きがよかったですね~♪
最近の流行りといえば「マルチバース」です。「マーベル」や「DC」などのヒーローを扱った作品でよく使われる設定です。
ただし、今作では世界を行ったり来たりするのではなくて、他の世界の自分の能力をシンクロして扱うという面白い設定となっています。
他世界にシンクロしたり能力をダウンロードするための技術としてバースジャンプというアイディアが使われていて、これが見せ場と笑いを作っています。
そして、バースジャンプの開発に成功したマルチバースをアルファバースと呼んでいます。アルファバースから来たウェイモンドは「アルファ・ウェイモンド」。
ジョブ・トゥパキのジョイもアルファバースのジョイなので「アルファ・ジョイ」なのですが、すべてのマルチバースのジョイがすでに融合しています。
この辺のなにやら複雑な感じを、絵と演技で分かりやすく見せてくれるのがいいですね~♪
もうね、なにが笑えたかって、この映画の軸になる設定である”バースジャンプ”の設定です。
量子力学的な設定なんですかね。
「統計的に有り得ない奇妙な行動」をとることで他のマルチバースの自分の身体にシンクロしてスキルや記憶などにアクセスできる技術のことを言います。
意味わからん設定ですよね(笑)
「統計的にあり得ない奇妙な行動」として
などで、全く奇妙で思わず笑えてしまうようなことをしています。
全体的には「絶望」に堕ちていって、そこから這い上がるというようなハードなお話ですが、こういったおバカな設定などによって明るく笑いながら見られるのがいい感じでした。
もうなにがすごいって、ディアドラ役のジェイミー・リー・カーティスですよ。
悪役にもなれば、恋愛相手にもなれば、と同じキャラの多様な一面を演じ分けていて演技力のすごさを目の当たりにできました。
このでっぷりお腹は恐らく特殊メイクなのだと思われます。
『トゥルーライズ』の時のジェイミー・リー・カーティスの2段変身&ナイスバディでやられてしまいましたからね~。
この作品は設定としては非常に壮大な設定となっていますが、なんとほぼワンシチュエーションで物語が展開されています。
確定申告のため訪れた税務局とエヴリンたちが経営しているコインランドリーくらいで他の場所はほとんど出てきません。
いくつものマルチバースをまたいでの物語なのですが、メインは以上の2か所ほど。
だから宇宙規模の壮大さみたいのがなくて、荒唐無稽な設定なのに妙にリアルさを増している感じです。
キー・ホイ・クアン扮するエヴリンの夫ウェイモンド。アルファバースのウェイモンドはカンフーをバースジャンプで修得して税務局で大暴れします。
このアクションは基本的にブルース・リー&ジャッキー・チェンの動きをオマージュした動きになっています。
実際に、ウェイモンド役はキー・ホイ・クアンの前にジャッキー・チェンにオファーされていたそうです。
『マトリックス』では、マトリックス内にいるアバターにカンフーやヘリの操縦などをダウンロードすれば修得することが出来てしまうというのが描かれています。
今作でも似た感じでバースジャンプによって、他世界の自分の能力を瞬間的に習得することが出来ます。
カンフーの師匠との出会いや修行のシーンなどがオマージュとなっています。
カンフーアクションにおける基本的な動き方やワイヤーアクションなどはミシェル・ヨーも出演している本人も出演している『グリーン・ディスティニー』からの影響が大きいです。
少年時代のキー・ホイ・クアンが出演していたのが『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』。
エヴリンがウェイモンドとの幸せな人生を垣間見るシーンで、「That’s very funny,」(とても面白い)と言っています。
これは『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』でのショート・ラウンド役のキー・ホイ・クアンのセリフでした。
エヴリンが映画スターの世界で裏路地でのウェイモンドとの会話のシーンはこの『花様年華』がモチーフになっています。
ちなみにこの作品にはキー・ホイ・クアンが副監督として参加しています。
この映画でミシェル・ヨーはプレミアムのレッド・カーペットを実際に歩くことになります。
その時のレッド・カーペットを歩いている実際の映像が作中で使用されています。
さらに、『クレイジー・リッチ!』での母親は今作のエヴリンにそっくりな性格しています。
もしかしたら、マルチバースのエブリンなのかもしれませんね(笑)
指がウインナーの世界の「人類の夜明け」をほぼそのまま描いています。
もちろんBGMもリヒャルト・シュトラウスの『ツァラトゥストラはかく語りき』なんですが、なんだかフィヨフィヨと歪んだ感じに聞こえます。
これはダニエル・クワン監督が自らトランペット演奏していたのだそう。
主人公たちのさまざまな未来の可能性を描いたシーンが登場します。
ダニエルズはここら辺からインスピレーションを得ていたようです。
人間ともののけたちとの間に生まれた「分断」の物語。
エブリンと夫、父親、娘、税務担当として出会った他人のディアドラ、それぞれの人間関係における「分断」を描いたのは「もののけ姫」へのオマージュ。
虚構と現実がまじりあっていく感覚は、エヴリンが他のマルチバースの自分を体験するするのに似ています。
ジョブ・トゥパキのジョイが人間を消し去ってしまった時のシーンは紙吹雪や無数の蝶にバッっと変化して飛び散ってしまいます。
これも『パプリカ』にある印象的なシーンです。
ジョブ・トゥパキのジョイと初対面のシーンでジョイが来ている衣装は完全にプレスリーの衣装をオマージュしています。
コインランドリーの常連客である「ビッグ・ノーズ」ことジェニー・スレイトが、洗濯物を受け取るために提示するチケット番号が「42番」です。この番号は、2005年に出版された小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』に登場し、「人生、宇宙、そしてすべてに関する究極の疑問の答え」として有名な番号です。
あからさまに頭にアライグマをのせ、アライグマの指示通り料理をするコックが登場する世界があります。
完全に『レミーのおいしいレストラン』なのですが、ネズミにしなかったのは「大人の事情」なのか、衛生面を気にしたのか(笑)
エブリンが小指1本で敵を吹き飛ばした時の効果音が『大乱闘スマッシュブラザーズ』の相手が吹っ飛ばされた時の効果音を使っています。
人々が夢を失い続けた結果、虚無に飲み込まれて滅びそうになっているファンタ―ジェンを主人公バスチアンが救う物語が『ネバーエンディング・ストーリー』です。
今作も全ての世界を見てしまって絶望してしまったジョイが生み出した虚無(ベーグル)がすべての世界を消滅させようとしているのを、エヴリンが救うという物語です。
ほぼ同じ構造の物語となっています。
『ドライブ・マイ・カー』も夫婦間の断絶してしまったコミュニケーションや愛情を表現した作品でした。
多言語を扱うのは断絶してしまったコミュニケーションを表現するためでした。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』でも中国語は広東語と北京語、さらに英語が使い分けられています。
親子間、夫婦間のディスコミュニケーションを表すためのオマージュとなっています。
虚無に囚われ、ジョブ・トゥパキとなってしまったジョイに操られてしまった人々がエヴリンを襲います。
しかしエヴリンは目覚めた力を使って、虚無の支配からひとりひとり解き放っていきます。
このシーンはディズニーランドの3Dムービーアトラクションの『キャプテンEO』のオマージュです。
マイケル・ジャクソン扮するキャプテンEOは正義の心とパワーで、悪に染められ支配されていた兵士たちを次々に開放して味方にしていきます。
悪に染められて黒っぽい衣装の兵士たちが、キャプテンEOがダンスしながら放つ稲妻のようなパワーを受けた瞬間に明るい色調のコスチュームに変わり、キャプテンの後ろで一緒に踊るようになります。
この映画は多種多様なしかも割と現在においてトレンドとされている題材をごった煮にしています。
SF要素としてマルチバースを扱います。
戦うためのカンフーアクション。
LGBTQへの無理解や多様性を受け入れる事への賛歌。
アメリカにおけるアジア系移民の苦労や困難。
今作品の中での”ベーグル”は虚無を意味しています。
全ての世界を見て経験してしまったジョイは自分の人生に意味を見出せなくなってしまい、意味がないならいっそすべてを消滅させてしまおうと考えて、すべての世界を重ねて消滅させるための力を作り出しました。
それが”全部のせベーグル”です。
モチーフとしてはニューヨークの朝食の定番である「エヴリシング・ベーグル」です。
セサミ(ごま)、ポピーシード、オニオン、ガーリックチップ、ソルトなどトッピングを全部のせしたベーグルがあります。
これがマルチバースのすべてを混ぜこぜにした(全部のせした)結果、出来てしまったブラックホールのようなものをベーグルと呼ぶ理由となっています。
ベーグルは円の形をしています。これは「0」をも意味しています。まさに「虚無=なにもない0の状態」という事です。
エレベータ内でウェイモンドがさした傘の柄はベーグル柄。
エヴリンとウェイモンドが身を隠した会議室のテーブルの大量のベーグル。しかもウェイモンドが食べている。(ウェイモンドの陽気さがエヴリンを救い、ベーグルを打ち消す力となります。)
そしてベーグルが物語のキーであることから、作中何度もベーグルを連想させるものが登場します。
などなどです。
監督のダニエルズが“全く意味を持たないランダムの集合体”という事で考え出しました。
アナグラムや隠喩や暗喩なんかではなくて、「意味のない言葉」として規則性を持たせないようにするように工夫したのだそうです。
アルファバースのジョイはすべてのマルチバースを経験してしまった結果、「幸せなのは結局自分自身ではない」ということをありありと突きつけられて、「自分の人生には意味がない」と絶望してしまいます。
あまりの絶望にすべてのマルチバースを自分ごと消滅させようと”ベーグル”を生み出します。
「意味のない人生」を歩む自分は「意味のない言葉」を名前としようということで、ジョブ・トゥパキと名乗るようになる訳です。
なぜ、エブリンはぎょろ目シールを第3の目の位置に張り付けたのかも説明できてしまいます。
まず、「第3の目」とは、人間には存在しない仮想的な目のことで、スピリチュアルや超常現象などの分野で使われる言葉です。この「目」を開くことで、物理的な目では捉えることのできない世界や、自分自身の内面にある潜在能力を認識することができるとされています。ただし、科学的には根拠がないとされ、超自然的な現象として認められていません。しかし、精神状態の変化によって感覚が拡張されることはあるため、個人的な信仰や哲学的な立場に基づく信念として広く受け入れられています。
ぎょろ目シールはベーグルとは逆に白い円に黒い穴を意味しています。
つまり、ベーグル=虚無とは逆の属性を持っていることになるんですね。
虚無を打ち消す逆属性の力をエブリンは獲得したわけです。もちろん力の源は「心」です。
ウェイモンドはぎょろ目シールを部屋の中のぬいぐるみやいろんなものに貼り付けてエヴリンとの生活を少しでも明るく楽しくしていこうとしていました。
つまりウェイモンドの愛情の象徴でもあるわけです。
その愛情は彼のやさしさから来ています。
すべてを失敗する人生のエヴリンに対して「失敗しかしていない君のおかげであらゆる可能性世界が生まれている」といいます。
他世界のためにすべてを失敗することを選択しているエブリンは究極にやさしいです。
ウェイモンドはすべてを失敗するエブリンだからこそ愛しているわけです。
逆に他の成功している世界ではウェイモンドとうまくいっていないんです。
エブリンは第3の目の位置にぎょろ目シールを貼ることでウェイモンドの愛情を認めて受け入れた結果、”ベーグル”とは逆の属性の力を発揮することが出来るようになったわけです。
愛娘のジョイが同性愛という自分やその父親にはなかなか受け入れるのが難しいことも、愛情により素のままのジョイを受け入れることが出来るようになったわけです。
物言わぬ岩になった世界が登場しました。
この映画は「ディスコミュニケーション」、つまり”コミュニケーションできないすれ違い”によって、それぞれのキャラクターたちが愛情を感じられなくなっています。
断絶してしまった状態を通じない思いや言語を使って表現しています。
その中でも特にこの岩の世界は究極の「ディスコミュニケーション」を象徴しています。
しかし、この岩には愛情の証であるぎょろ目シールが貼り付けられ、エヴリンとジョイとしての人格があります。
だからこそ互いに会話を行っています。
しかも一念の強さにより、岩なのに移動するという奇跡を起こします。
意味がないと思っても、そこには何かしらの存在が意味をもたらしていることに気付かされます。
電八としてはここのところのアカデミー賞の傾向に少し不満を感じています。
ポリコレを異常に意識しすぎだったり、誰か著名人が「いい」と言ったら、みんな連鎖的に「いい」ということになり、あれよあれよと受賞してしまうというようなことが見受けられます。
今作が受賞したのには不満はないのですが、年々、アカデミー賞受賞作品のクオリティというか、レベルというか、格調というかが少しずつ下がってきているような気がしています。
ウケる映画が受賞する賞ではなく、売れなかった映画でも質の良い映画が受賞して世界に紹介されるというのもアカデミー賞の役割のような気がするんですよね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。今回の記事は以上となります。
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