架空の歴史をたどった日本を舞台にした、いわゆるパラレルワールドを描いた作品。
とにかくこの映画は大好きでDVDを購入して何度も見返しています。
若い頃に観たのと今、また見直してみるのでは、なんだか感覚が違っています。
でも大好きなのは変わらないです。
※この記事には多分にネタバレが含まれています。この作品をご覧になっていない方にはオススメ出来ません。
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作品概要
1996年公開の岩井俊二監督作品。主演はCHARA、三上博史、伊藤歩のトリプル主演。
劇中の曲ははもちろんCHARAが歌っています。劇中に組まれたバンド名のYEN TOWN BAND、そしてそれぞれのキャラ名義で公開されています。
また主題歌「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」で実際にYEN TOWN BANDとしてデビューしています。
ちなみにこの曲は本編中では流れず、EDのみで使用されています。
◆「スワロウテイル」25周年スペシャルトーク公開 https://charaweb.net/2021/09/st-25th-special/
あらすじ
起・承
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イェンタウンの母親を亡くしてたらい回しになっていたアゲハを娼婦のグリコが引き取る事に。
ある夜、グリコはヤクザの客須藤の相手をしていた。アゲハは同室に隠れていたが須藤に見つかり乱暴される。
元ボクサーのアーロウに助けを求めたところ、須藤を殴り飛ばし窓から転落させてしまう。しかも通りがかったトラックが須藤を踏みつけて死んでしまった。
仲間うちのフェイフォンたちに相談し遺体を山に埋めに行くことに。埋める時に遺体の腹からカセットテープが出てくる。録音されている曲は「マイ・ウェイ」。
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リャンキは盗まれた「マイ・ウェイ」のカセットを探して葛飾組の親分を急襲。結局有りかが分からず、須藤の足取りを洗い始める。
フェイフォンの仲間のランが「マイ・ウェイ」のカセットを解析したところ、1万円紙幣の磁気データが収められていて、ニセ札を作って金儲けができる事が分かってしまう。
フェイフォンたちはニセ札を作って次々と現金化して大金をせしめる。
転・結
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フェイフォンはせしめた大金でライブハウスを開きグリコを歌姫にする。すると連日大人気の満席御礼に。
大レコード会社マッシュレコードからグリコにオファーがかかり、あっという間にグリコは大スターになる。
そんな中、もうグリコに近づかないという約束でマッシュレコードからフェイフォンは金を受け取る。それがバンドメンバーに知れて仲間割れに。結局ライブハウスは閉める事に。
なんだか一気に色々を失ってしまったような気になっていたアゲハは仲間の一人が拾った薬物を注射で射ち、倒れてしまう。
子供たちが必死に助けを求めたのが通りがかったリャンキだった。リャンキは「阿片街」の病院へアゲハを連れていき助ける。
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そこで有名になったグリコが実はリャンキの妹だという事が分かる。
ライブハウスやフェイフォンたちとの楽しい生活を取り戻したいアゲハは胸にアゲハ蝶のタトゥーを彫り、ニセ札と子供たちのネットワークを使って大金を作り出す。
レイコのタレコミで鈴木野がグリコのスキャンダルを暴こうとするが、リャンキの部下のマオフウたちにグリコと一緒に追い回され、捕まってしまう。
マオフウたちに脅されテープを取りにランたちのいる「あおぞら」へ行くが、ランとシェンメイが一瞬でマオフウたちを全滅させる。
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一方、同じように「マイ・ウェイ」のカセットを探すためにフェイフォンを捕まえようとするリャンキの部下たちに追い回されていた。
フェイフォンは逃げている最中に警察にニセ札を使おうとしているところを見つかって捕まってしまう。
取り調べという名目で過剰な暴力を受けた結果、傷だらけのまま牢獄でフェイフォンは死んでしまう。
アゲハたちがフェイフォンの遺体を受け取り、「あおぞら」で遺体を焼いて弔う事に。
アゲハは結局使えなかった円(イェン)をすべて炎に投げ込む。
ラスト
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ランとシェンメイは組織からの命令で次のターゲット、リャンキの暗殺準備をする。
リャンキは車でハイウェイを走っているとアゲハを見つけて声をかける。店を始めたというアゲハ。そして去り際に「助けてくれたお礼に」と「マイ・ウェイ」のカセットをリャンキに渡す。
リャンキは車に再び乗りこむ。
そうそうたるメンツ!
とにかく、今となれば俳優陣が豪華です。
上海系イェンタウンのフェイフォンを三上博史が演じています。底抜けに明るくひたすらグリコが好きな歌を歌えるように頑張ります。
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娼婦グリコをCHARAが演じます。不思議な可愛さが滲み出ていていいです。
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そして孤児となってグリコに引き取られるアゲハを演じるのが伊藤歩。驚くべき演技力です。この時彼女はまだなんと15歳でした。
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流氓(リウミン)のボス・リャンキを江口洋介。キレてる演技とカッコいい演技と両方見せてくれます。
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フェイフォンの仲間のひとりにして暗殺組織のエージェント・ランを渡部篤郎。カッコいいです!
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その相棒エージェントのシェンメイを山口智子、これがまたかわいい!!
グリコと同じ娼館の娼婦レイコを大塚寧々、トンでる演技がすごい!
レイコからの情報でグリコのスキャンダルを暴こうとする雑誌記者鈴木野清子を桃井かおり。
他にもどっかで見たことある顔!!って演技派の役者さんが脇をしっかり固めています。
中でも「阿片街」の闇医者役のミッキー・カーチスはいい味出てます。
”円”(イェン)の価値
この映画はお金”円”のために簡単に命をやり取りしたり、人の気持ちをないがしろにする描写に溢れています。
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「マイ・ウェイ」のカセットテープに封じ込められていた1万円札の磁気データを使って莫大な金額を得る事が出来てしまった。
何でもできるようになるのですが、そのために大きく自分たちの思った方向とは違う方に転がっていってしまう。
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でも最後、死んでしまったフェイフォンの弔いの時に遺体を焼く炎に稼いだお金を全部投げ入れて燃やしてしまいます。
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いろんな意味愛情を感じている相手のフェイフォンがいないのでは、いくらお金があっても意味が無くなってしまったという事でしょう。
一緒に楽しめる、喜べる相手はお金では手に入らないという事です。
お金”円”の価値って何なんでしょう?と問いかけられているようです。
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なぜアゲハ蝶なのか
ひとことで言ってしまえば、「成長と変化」の象徴だからです。
グリコの胸にはアゲハ蝶のタトゥーがあります。
のちにアゲハはグリコを真似して胸にアゲハ蝶のタトゥーを彫ります。
イモムシからサナギを経て、チョウは美しく羽ばたくようになります。
「変化」の象徴であり、大人への成長の意味があるのでしょう。
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「アゲハの成長」という意味もあります。
最初にグリコはアゲハの胸にイモムシの絵を描きます。
その後、アゲハは淡い恋心や悲しい別れなどを経験し、大人になる決意をして自らアゲハ蝶のタトゥーを入れます。
そしてこの物語世界での「変化」はイェンタウンの生き方やお金に対する意味も徐々に変化していくことを予感させる終わり方です。
さらにこの作品を観た人にも「変化」が生じるはずです。
子供たちの未来、自分の夢と現実、お金と時間、差別に対しての考え、などいろんなメッセージが影響を与え変化するはずです。
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ちなみにアゲハ蝶は英語ではSwallowtail(スワロウテイル)です。羽の尾がツバメの尻尾のように長いのでそう呼ばれているのだそう。
パラレルワールドなので一応SFと言える
パラレルワールドを描いた作品という事で、一応SFと呼んでもよい作品です。
ディックの「高い城の男」のように進んだ科学的描写がなくとも、「もし〇○○だったなら」という設定で世界構築している作品という事でSF作品となっています。
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この作品も架空の歴史上の日本が舞台で、「もしも~」があるわけです。
まあ敢えて何かジャンルを付ける必要もないとは思いますが、自分がSF好きなので、、、(笑)
ちなみにSF的なギミックがひとつだけ登場します。
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ランにシェンメイがターゲットのデータを紹介するシーンで画像のサングラスが登場します。
いわゆるヴァーチャルグラスで、ターゲットの写真・データなどを映すモニターとなります。しかもそのままデータを表示したまま周囲の景色を透過させて視ることが出来ます。
もちろん公開当時にはこのような商品などは存在しません。それどころか技術自体がそもそもありません。
問題もありました。
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この映画の残酷な描写や暴力シーン、「阿片街」の様子などはけっこう踏み込んだ描写のされ方をしています。
恐らくこの辺の問題でTVでは再放映されないのではないでしょうか。
さらに小学生・中学生の子供たちがニセ札を自動販売機に入れて、本物の現金を手に入れる様子を描いたシーンがあり、当時問題になったそうです。
しかし過激なシーンや描写がある事は確かですが、それよりもっと重要なメッセージが描かれているので、端的なところを取り上げて評価を下げられているのは少し残念なところです。
折り重なるせつなさ
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この映画は幾重にも折り重なるせつなさが感動へとつながる要素となっています。
- フェイフォンのグリコに対する不器用なまでの愛情。
- グリコはフェイフォンと一緒にいたいだけなのに離されてしまう。
- アゲハの決して成就されないフェイフォンに対する淡い恋心。
- 実の妹がグリコだと分かっても会いに行けないリャンキ。
- ただ幸せになりたいだけなのになれないイェンタウンたち。
- お金はあるけどイェンタウンたちを蔑むことでしか自尊心を奮えない日本人。
- この映画を観て自分の中にも映画の中の日本人がいる事が分かってしまう観客の心。
自分が気付いただけでもこれだけの「せつなさ」が重なっています。
世界観がノスタルジックでいい!
イェンタウンたちは様々な国から”円”を掘りにやってきます。
だから、日本語、カタコトの日本語、英語、中国語が入り乱れた形で使われます。
役者さんたちはセリフ大変だったろうなー。
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また映像自体も日本なので見慣れた感じもあり、でも自分の知らない土地や言葉だから不思議な違和感を覚えて、デジャヴを見てるような映像になっているんです。
そして全編通してほんのりソフトフォーカスになっています。
このおかげでなんだか夢の中にいるみたいな感覚を覚えます。
上映時間は149分。ですが不思議と長く感じないです。
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むかし むかし
円が世界で一番強かった頃
その街は移民たちであふれ
まるでいつかのゴールドラッシュのようだった
円を目当てに円を掘りに来る街
そんなこの街を移民たちはこう呼んだ
“円都“(イェンタウン)
でも日本人はこの名前を忌み嫌い
自分たちの街をそう呼ぶ移民たちを
“円盗“(イェンタウン)と呼んで蔑んだ
ちょっとややこしいけどイェンタウンというのは
この街とこの街に群がる異邦人のこと
がんばって円を稼いで祖国に帰れば大金持ち
夢みたいな話だけど
何しろここは円の楽園・・・イェンタウン
そしてこれは
イェンタウンに棲むイェンタウンたちの物語
「スワロウテイル」本編より引用
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おまけ
2015年にYEN TOWN BANDの新曲が20年ぶりに発表されています。
そのPVはもちろん岩井俊二監督が手掛けていて、「スワロウテイル」に重ねた映像になっています。
最後まで読んでいただきありがとうございます。今回の記事は以上となります。
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