「OVA」という言葉が生まれ使われるようになった頃に最も注目度高く、人気のあったシリーズが「メガゾーン23」シリーズです。
この作品は映画ではありませんが、時代背景を考えるのにうってつけの作品だと思います。
※注意:この記事にはネタバレが多分に含まれています。作品をご覧になっていない方にはオススメできません。
作品概要
1985年、公開された日本のOVA(オリジナルビデオアニメーション)作品。
TVアニメ「超時空要塞マクロス」、劇場版作品「超時空要塞マクロス~愛・おぼえていますか~」のスタッフだった石黒昇、美樹本晴彦、平野俊弘、板野一郎らが、再結集して作成している。
1986年にPARTⅡがキャラクターデザインが一新されて公開され賛否あるが、大きな話題となりました。
また1989年にPARTⅢが公開。こちらはPARTⅠ、PARTⅡから数百年後が舞台となっている作品です。こちらも絵柄が変わっています。
本作品ではシリーズ通して「時祭イブ」というキャラクターがシンボルキャラクターとして登場します。このキャラクターデザインは美樹本晴彦ですが、作画に関わっているのはPARTⅠのみ。PARTⅡでは門上洋子がイブ作画監督で、PARTⅢでは北爪宏幸がデザインクリンナップしています。
世界観
遥かな未来、人類は大規模な戦争によって地球環境に大打撃を与えた。地球連邦は地球保護法をベースnにしてA.D.A.M管理を設定して地球管理システムを発動させる。
結果、人類は何隻もの巨大都市宇宙船で地球から退去し、居住可能惑星を探索するために500年もの歳月、宇宙を漂ってきた。
巨大都市宇宙船の一隻であるメガゾーン23(MZ23)は巨大コンピュータバハムートによって制御されていた。
内部の都市は1980年代の東京を宇宙船の中に再現した都市になっていて人々はバハムートによる情報統制で何も知らずに平和に暮らしている。
しかし1980年頃の東京と完全には一致していない違和感が各所にあります。
ひとつ疑問になるのが海外旅行などした時どうしていたのか?
これはバハムートの隠蔽工作で80年代を500年間もの長きに渡って繰り返したために違っている部分があるという設定です。
これはバハムートが潜在意識に働きかけ、海外旅行などに行きたいと思わないように心理操作しています。
やむを得ず旅行させなければならない時には空港で記憶を改ざんする処理を行います。
全国的なアイドル・時祭イブは大衆の心理操作を行うためのバハムートが産み出したバーチャル・アイドルです。
そこへMZ23と同じ目的で建造された巨大都市宇宙船デザルグがMZ23に対して攻撃を開始してきた。
ここまでがPARTⅠ、PARTⅡまでの設定です。
PARTⅢはPARTⅡのラストでバハムートが主人公・矢作省吾(やはぎしょうご)らを認め、崩れ去るMZ23から脱出カプセルで地球上に降り立ってから数百年後のストーリーとなっています。
脱出カプセル上に高度な未来都市が建設され、人々は管理局のシステム統制のもと、平和に暮らしているが、その管理システムに違和感を感じ反発していく若者たちを描いています。
当時の世相をそのままSFに
80年代はどんどん経済的に成長して、世の中的には昇り調子で若者たちは未来を案じるよりも現在をどう楽しく過ごすかに重点を置いていました。
PARTⅠにはこういった空気感が作品の各所に見受けられます。
80年代当時は各地にハンバーガーショップやコンビニがどんどん出来上がり、アイドルブームやプロレスでアントニオ猪木が大活躍していたりします。
作中、学校をさぼり、バイクを乗り回し、ディスコで楽しく過ごす主人公たち。いわゆる、「青春」を謳歌する姿を描いています。
PARTⅡでは暴走族が省吾の仲間として登場します。80年代は暴走族も流行していました。
ヒロインである由唯(ユイ)は「現在(いま)が一番いい時代(とき)」と言っています。
なんとなくの未来に対する不安を口にしているとも取れます。このセリフ以降は物語的には過酷さを増していきます。
予言的になってしまった物語
90年代にバブルが弾け、以降80年代のような平和で昇り調子の時代は長らく訪れていないです。
80年代当時、OVAはVHSテープのパッケージとして販売されていましたが、10,000円~15,000円という非常に高額な価格で販売されていました。
そんな価格でも売れていたわけです。非常に景気が良かったと言えます。
「メガゾーン23」は2万本以上が売れたそうです。つまり売り上げは3億円近くになったそう。
劇中、省吾がイブに「なぜ80年代の東京を再現したのか?」と問うシーンがあります。
「1980年代が人類で最も良い時代だったから、MZ23内の都市はその時代を再現している」と答えます。
確かに90年以降の日本は80年代が最高だったわけで、「いまが一番いい時」というイブと由唯のセリフが現実になってしまっているといえます。
PARTⅡラストでMZ23は主人公たちを乗せた脱出カプセル以外はすべて崩壊してしまいます。そのシーンは都市部が崩壊し破壊しつくされていくところをリアルに描いています。
まるで日本経済の崩壊的な低迷を暗示していたかのようです。
以下はPARTⅡのラスト、MZ23が崩壊していくシーンの動画です。
反発・成長・大人として
この物語は全編通して、少年・少女が大人や社会に対して持つ反発と経験による成長、そして大人としての態度などを描いています。
PART1、PARTⅡではBDたちは外部の敵デザルグからMZ23を守るために人知れず戦っています。
これは完全に大人として大切な者たちを守るために命を懸けているので、実は非難の対象ではないんですよね。
しかし主人公たちは裏で隠し事をしたり、弱い者を切り捨てるような態度に反発を覚えて、BDたちに対立します。
主人公の省吾って?
本作は分かりづらいと感じる方も多いそうです。自分も最初はいまいちわからない事が多かったんですが、何度も見直してある程度解釈する事が出来るようになりました。
恐らく主人公・矢作省吾について特徴を理解すれば分かり易くなると思うので少し紹介します。
PARTⅠではバイク好きのお調子者。「ダーッ!」と叫ぶ事があるので、アントニオ猪木のファンだと思われます。
ガーランドを偶然手に入れてしまいイブと交信する事で自分たちの街の真実に気付いてしまいます。
自分たちの平和な青春が実は虚構だったことにショックを受けてしまいます。
またガーランドという大きな力を得た万能感から、騙されていた怒りをBDたち(大人)にぶつけようとしますがボコボコにされます。
PARTⅠのラストはボコボコにされ、由唯との約束の場所には戻らずに失意のまま渋谷の街に消えていきます。
PARTⅡでは由唯との再会、仲間たちとの触れ合いの中で大人になるという事を少しずつ受け入れていきます。
最終的にはイブの「自分がなりたい大人になればいい」という言葉により大人になる事自体が悪い事ではないと受け入れ、地球で仲間たちと新しい世界を作っていきます。
PARTⅢでは、管理局のシステムに取り込まれてしまい、数百年も人々の自由を奪い続けるシステムの傀儡として登場します。これをPARTⅢの主人公エイジが解放します。
矢作省吾というキャラクターは基本的には若者代表として描かれています。
そして大人になって行くのですが、なかなか理想の大人像に近づくのは難しい事です。大きな努力が必要という事が描かれているのだと思います。
ガーランドなどのメカ。
「超時空要塞マクロス」のスタッフが再結集という事で、変形ロボット・美少女・アイドル・歌・SFがしっかり含まれています。
実はこの作品自体が「機甲創世記モスピーダ」の後番組として立ち上がった企画だったそうです。なのでバイクからヒト型に変形するメカ・ガーランドが登場するわけです。
本作では巨大ロボは出て来ません。これは宇宙船内での戦闘がメインなので対比として巨大なメカを動かすためのスペースは考えずらかったからだと予想されます。おかげでリアリティが増し、臨場感がでるアクションに繋がったのだと思われます。
作画について
アクションシーンの作画については、板野一郎によるダイナミックな戦闘シーンが描かれています。
すごいスピードで目まぐるしく動き回る作画で、「板野サーカス」と呼ばれています。
キャラクターたちに関してはPARTⅠでは平野俊弘がイブ以外のキャラクターデザインを担当。当時流行の無重力ヘアを取り入れたデザインが特徴的です。
無重力ヘアは現実ではありえない、形と色をした髪型のこと。無重力でなら形を保つことが出来そうな髪型という事でそう呼ばれるようになりました。
PARTⅡでは梅津泰臣が担当。リアリティ路線に大幅に絵柄を変更しました。
これが賛否両論、大きく反響を呼びました。
PARTⅢでは北爪宏幸がイブも含むデザインを担当。これもPARTⅡからは大きく絵柄が変わっています。
また、動画スタッフとして庵野秀明も参加しています。
分かり易い解説動画がありましたので
おまけ
当時のアニメーション製作現場はあまりに過酷でスタッフがどんどん入れ替わっていったそうです。
スケジュールに関しても「順調に遅れる」という言葉が通常で、製作開始時に立てたスケジュール通りにいく事はほぼなかったそうです。
なのでスケジュールは遅れる事を想定して予定を組むようになっているそうですが、それでもさらに遅れが出たりするのはよくあったことだそうです。
それからOVA作品という事で、TV放映では出来ない表現が可能という事で過激なベッドシーンやグロ描写もしっかり描かれています。
ちなみにU-NEXTにてPARTⅠ、PARTⅡが見放題配信中です!
最後まで読んでいただきありがとうございます。今回の記事は以上となります。
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