※2022年8月6日に書いた記事を修正・追記いたしました。
やっとこVOD(ビデオオンデマンド)などの動画配信サービスで見放題になったので鑑賞しました。
もともと「サマーウォーズ」が大好きで、細田守監督作品にはちょっと注目しています。
という訳で電八的感想・解説を書いてみました。
※注意:この記事にはネタバレが多分に含まれています。作品をご覧になっていない方にはオススメできません。
作品概要
2021年公開の細田守監督作品。
2022年1月、第45回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞。
3月、音楽スタッフの岩崎太整、Ludvig Forssell、坂東祐大が第45回日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。
ざっくりあらすじ
高知県の片田舎に住んでいるそばかすのある女子高生:すずは、幼い頃に事故で母親を亡くしてしまい、それから大好きな歌も歌えなくなっていました。
ある日親友のヒロちゃんに仮想世界「U」に登録して、AS(アズ)と呼ばれるアバターにベルと名付けます。
「U」の中では自然に歌うことが出来るベルとなったすずは、莫大な数のフォロワーや反響を得ます。
はたして、すずはどうなっていくのか?
細田守作品あるある
「竜とそばかすの姫」を理解するために細田守監督作品に共通する「あるある」を知っておきましょう。
けっこう賛否両極端に分かれる作風なんですよね。
非日常や仮想世界と日常世界の対比を描く
異能力を持つことでの非日常や仮想世界と、ごく普通の日常を対比として描きます。
そうすることで作品の構造がメタ的(入れ子状)になり、よりメッセージ性を強めることが出来るようになります。
劇中のキャラクターたちの非日常と日常、また「観客が作品を見ている」という非日常と、観客それぞれの日常とが重なり合う構造になっています。
「なりたい自分」に
クジラ=神的なイメージ
「サマーウォーズ」の「OZ(オズ)」でも巨大なクジラが象徴的に描かれていました。
両方とも特に細かい設定については語られていないのですが、いわゆる主人公の守護神として描かれています。
細田監督のリアルにリンク
親子のテーマを細田守監督が描くようになるのが、「おおかみこどもの雨と雪」以降の作品です。
これは監督が結婚して子供が生まれたのがこの頃というのが影響しています。
親が子供見る時の感情表現にリアリティがあるのはそのためです。
異世界での作画は赤い輪郭線
異世界や異空間にいるキャラクターは赤い輪郭線で描かれています。
現実世界とは存在のあり方が違うという事を、赤い輪郭線を使って描くことで表しています。
入道雲
「入道雲」が細田守監督作品には必ず登場します。
つまり季節として夏が描かれることが多いわけです。
もくもくと大きな入道雲には「成長する」という意味合いがあります。
そして、夏には「思い出」とか「記憶」を象徴する意味も含まれます。
小さなころに夏休に起こった思い出の出来事は、入道雲がある景色を見るとその記憶を呼び覚まされるような作用があると思います。
監督がインタビューでも「夏は子供の成長のシーズンだから!」と答えていたそうです。
夏は子供が大冒険して成長する季節というイメージなんですね~。
その象徴が入道雲なんですよね。
モチーフの上手さ
今作においては例えばすずがもっている「欠けたカップ」です。これは家族の一部が欠けていることを暗に示しています。
中にお茶を淹れて飲むことも出来るので、ちゃんと機能としては十分なのだけれど欠けた部分があることで、ものさみしく見えます。
欠け方がもっと大きいとそんなにまでしてそのカップで飲みたい理由が描かれないと納得できなくなってしまうし、小さいとさみしいという感情を表すには十分ではなくなってしまいます。
つまり絶妙な欠け具合です。
両手で持ってチビチビ飲むのは母親がいなくてさみしいことを態度で見せています。
また、片脚の犬も同じく欠けてしまったかけがえのないものを表していて、やはり母親が亡くなってしまって、歌えなくなったり、父親と話せなくなってしまったことを示しています。
ほかの作品でもこういったキャラクターの気持ちを暗示させるモチーフがちょこちょこと出てきます。
これらも雰囲気を醸造するのにすごく重要な要素になっています。
監督が必ず入れ込む要素
美しい風景:入道雲や田舎の風景、スタイリッシュな異空間、田舎に対する都会など
王道の物語(エモーショナルな展開):悲しいことや苦しいことを乗り越える物語
異世界(異能力を持った非日常):仮想世界、超能力、人間とは違った存在など
青春:淡い恋愛、友達関係に悩む、若さゆえの愚かな行為、若いからできる無謀な冒険
意外と恋愛は控え目
キャストに関して
ヒロイン:スズ/Belle 中村佳穂
もちろんオーディションで決定したわけですが、最大の理由は監督自身が中村佳穂のファンで、彼女のライブによく足を運んでいたそう。
歌唱力も声質も非常に魅力的で演技もグッ!!
作中の曲「歌よ」では歌詞も担当しています。
周囲のキャラのキャスト
- しのぶ:成田凌
- カミシン:染谷将太
- ルカ:玉城ティナ
- ヒロちゃん:幾田りら
- 竜:佐藤健
- すずの父:役所広司
ほかにも豪華声優・俳優がたくさん参加しています。
「美女と野獣」がモチーフ
見れば一発で分かりますし、監督本人もインタビューで「美女と野獣をモチーフにした作品がやりたかった」と答えています。
ビジュアル面ではもちろん「美女」はベル、「野獣」は竜です。
しかし作品からの意味としては、さえない女子高生なのに世界一の歌姫ベルというすずの二面性が「野獣」の持つ二面性を表します。
「野獣」は醜く恐ろしい怪物ですが、呪いが解ければやさしく見目麗しい王子という二面性をもっています。
すずがそばかすを醜いと気にしているのと醜い姿の「野獣」ともリンクしています。
だからタイトルが「そばかすの姫と竜」ではなくて、逆の「竜とそばかすの姫」になっています。
キービジュアルである上記の画像でも二人の位置がタイトルに合わせてあります。
そしてもちろん、今作のベルは「美女と野獣」の主人公ベルが元ネタです。
「ベル=鈴=すず」です。細かいこと言えばベルは鐘なんですけどね(笑)
さらに、ふたりが踊るシーンは「美女と野獣」そっくりのお城で、「美女と野獣」そっくりのダンスやカメラワークです。
違いとしてはやはり、「美女と野獣」とは逆に今作では手を差し伸べるのはベルであり、竜は差し伸べられた手を取り、ベルにリードしてもらう感じで踊っています。
もちろんふたりの立ち位置も逆になっています。
電八的感想と解説
感想
「分からないものを映画にしたい、分かるものを映画にしてもつまらない」と監督はインタビューで答えていたそうです。
だから細かい部分に言及せずに魅せていくという作品づくりになっています。
まず映像美と音楽は最高!中村佳穂のPVとしても最高の出来だと思います。
そしていろいろ細かいツッコミどころはあるけれど、リアリティのある細かい描写のある絵柄なのに不思議な夢の中にいるような感覚になる雰囲気が大好き。
この雰囲気は、監督の作品すべてに通じて醸し出されているもので、リアリティある背景描写が逆に夢の中へのリンクの役割を担っています。
この感覚だけでも自分としては十分に魅せられてしまいます。
電八的には非常に良かった!という感想です。
細田守監督が好きな人は大好きな作品。逆に嫌いな人には猛批判するべき作品になってしまっています。
例えばAS(アズ)というアバターを作る時の原理が説明不足だったり、「U」の中でなにが出来るのか?などがほとんど描かれていません。
尺の問題なのかほぼ説明がないので分かりづらいという声も多いようです。
しかしロジカルに見る必要性はないのだと思います。
ポジティブな展開だが、主人公が特殊能力があるリア充なのでなかなか感情移入しづらいという方もいらっしゃるようですが、気にしないで観たほうが良いのではと思います。
そもそも監督は狙ってるかどうかわかりませんが、あまり細かいことに頓着せずに絵柄や演出のすばらしさで魅せていく作風なのだと思います。
解説
何重にも重ねられた二面性
今作はタイトルから「美女と野獣」を意識して、二面性に焦点を当てて重要視して描いています。
人間や世界の二面性を挙げてみると
- 現実世界:「U」の仮想世界
- 日常:非日常
- 歌えないすず:歌えるベル、
- したいことが出来ないすず:金持ちの娘でやりたいことをしているヒロちゃん、
- 父と話したいけど話せないすず:家族とのわだかまりがないヒロちゃん
- 暗く影が薄いすず:明るく人懐っこいルカ、
- 暴力的な竜:DVに苦しむケイ、
- 正義:暴力
- 月と太陽
などなど、何重にも二面性に対する言及が重ねられて描かれています。
月と太陽
二面性のひとつとして月と太陽が象徴的に描かれています。
すずはヒロちゃんに「月の裏側のような人」と言われています。
この時に太陽の位置にいるのがルカです。太陽はさんさんとした光で周囲を明るくします。
ルカは明るく周囲の人々を巻き込む魅力ある人間として描かれ、すずには自分とは正反対の人間に感じられています。
しかし実は恋する気持ちを表に出せないというすずとの共通点を持つのがルカです。
いうなれば「太陽の裏側のような人」であり、だからこそ「月の裏側のような人」であるすずと引き合う部分があるわけです。
正しさは正義ではない
作中において、「U」世界の自警団的な存在としてジャスティスというのが登場します。
そのリーダーであるジャスティンは「正義」を振りかざしています。
彼の考え方は「正義のためであれば暴力は正しい」「正しければ何をしてもよい」というものです。
正義を象徴するためにヒーローを模したASで登場します。
これは完全に「ウルトラマン」を意識したデザインです。
彼の右腕にはアカウントを強制的にアンベイルさせる力を持つ緑色の宝石が仕込まれています。
緑色は「不安」を象徴する色です。
素顔をさらしてしまう事に対する不安の光なんです。
しかし翼が描かれています。これは実は緑色の光が収まった後でも消えずに残ります。
不安から新しい世界に解放されるという意味も込められています。
周囲のキャラの立ち位置
しのぶ=すずの母→ずっと母に替わって見守っている=「顔見して、言ってみ」
よく見てみると、すずの母親が中州に取り残された子供を救いに川に入り亡くなってしまい、すずが泣いているシーンで、誰かの手がすずの手を取ってその場から連れ出そうとしているのが描かれています。
これはしのぶがその時にその場にいて、すずを連れ出そうとしているわけです。
しのぶはこの時からすずの母親としての役目を自らに課して見守り続けるようになります。
カミシン=我が道を行く=同調圧力に囚われない=そこに魅かれるルカ
明るく人懐っこいルカは実は周囲の目を気にしています。だからこそっと隠れるすずにも気付いて声をかけたりします。
カミシンは基本的に自分のやりたい事をやる上で人目をまったく気にしません。
実はすごいことをしているのですが、本人に自覚がなくただ一生懸命なだけなんです。
ルカはそんな自分に持っていないものを持っているカミシンに魅かれたわけです。
合唱隊の面々は、すずの母親が昔、合唱隊に所属していて小さな子供のころからすずを知っているわけです。
すずを親戚の子くらいの距離感で見ています。気にはしているけど、おせっかいにならない距離感です。だからすずは居心地がよくて合唱隊に所属しているわけです。
「秘密」=本当の気持ち
竜と「秘密のバラ」、「俺を見るな」、「彼は誰?」、「本当の秘密はなに?」「どっちが本当のあなた?」などのセリフに現れるように、劇中、重ねて「秘密」について言及されます。
これは最終的には「あなたの本当の気持ちは?」という問いであり、作品通してずっと問いかけられています。
そして、これはベルから見た竜だけでなく、すずから見た周囲の人々に対して、逆に周囲の人々からすずに対して、そしてこの作品を見ているすべての観客に対しての問いかけになっています。
「あなたの本当の気持ちは?」
アンベイル
アンベイルとは「ベイル=ベール(覆い)をとる」というもので、転じて「秘密を明らかにする」という意味です。
作中ではアカウントのオリジン(リアルの姿)をさらすという意味で使われています。
「U」の中ではもっとも強い暴力としてアンベイルが描かれています。
「U」の中のジャスティンは現実世界のDVの父親に当てこまれています。
ふたりとも暴力の象徴であり、竜(ケイ)を力で追い詰めます。
自ら選んで匿名性の高い「U」に入り込んだからには、実はオリジンには何の意味もないはずなのにみんな真実を知りたいと思ってしまう。
結局、現実とそう違わない鬱屈した苦しみが存在する世界として「U」は描かれています。
楽園ではない世界として現実世界の二面性として描かれています。
裏から表に
最後にクジラがどーんと現れた時に、すずのASがベルに戻っています。つまり本当の自分(=ベル)になっています。「月の反対側のような人」という裏側のすずから、本物(表側)のベルになったというのを意味します。
歌える、母親の気持ちが理解できる、さみしいからこそ優しくなれる、そんな本物の自分(ベル)に成長できたということです。
さらっと描かれていますが、この変身は非常に重要です。
「世界を変えよう」
すずの成長などにより現実世界も変わっていきます。
ケイ・トモ兄弟には信用できる大人がいなかったけれど、すずのおかげで人をまた信じてもよいと思えるようになりました。
しのぶは「これでやっとつきあえるな」と亡くなってしまったすずの母親の替わりの役目から解放されます。
友達としてなのか恋人としてなのかは説明されていませんが、今までと違ってしのぶ自身としてすずと向き合うことが出来るようになりました。
変わらないのは親友のヒロちゃんは親友のまま、合唱隊の面々も今まで通りすずと仲良く歌っていきます。
すずにとって今までの現実世界は苦しくてさみしくて恥ずかしい世界でした。
しかし今までずっと理解し、支えて続けてくれていた存在の父親や合唱隊の面々や親友ヒロちゃん、そしてしのぶがいる事に気付きます。
夕日や入道雲が非常に美しい世界を描くことで、これを象徴しています。
さらに新たな友、ルカとカミシンを得て、閉塞していた世界から解放されます。
新しい世界を照らす太陽を見てみんなと一緒に歌うところで終了となります。
「本当の秘密」は何か?
ケイ・トモ兄弟とすずは「母親に会いたい、さみしい」という気持ちをずっと胸に持ち続けているけど口に出さずにいます。セリフでも一言もないです。
この気持ちが「本当の秘密」であります。
すずはケイ・トモ兄弟に会いに行く決心をしたときに、母親が子供を助けに行った時の気持ちを少し理解して母親に近づけたと実感。
ケイ・トモ兄弟は助けてくれる大人であったはずの母親(恐らく亡くなっている)の代わりにすずが抱きしめてくれたことで「会いたい、さみしい」気持ちを癒されます。
彼らは今までの閉塞した世界に、ある種の突破口を見つけたことになって、前を向いて進んで行くことを決心できるようになります。
まあ、都合が良いと言ってしまうのは簡単ですが、これがこの物語での「問題の解決」の描かれ方です。
「本当の秘密」が明らかになることでようやく停滞していた物事が動き出すわけです。
フィクションの物語ですから「ウソ」があるのは当然です。
みんながハッピーエンドというのが、「ウソ」として認められないという人もいるみたいですが、電八的にはありだと思います。
まとめ
この記事で分かるのは
- 作品概要
- ざっくりあらすじ
- 細田守監督作品あるある
- キャストに関して
- 「美女と野獣」がモチーフ
- 電八的感想と解説
以上です。
おまけ
以下の動画は江頭2:50さんが「竜とそばかすの姫」を見て映画批評をするというものです。
意外と芯を食った批評で楽しく見られます。
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