【映画を楽しむコツ】vol.209 奥深いインド神話の世界へようこそ!【初心者向け】

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ここ何年かで日本でもかなり人気が高くなったインド映画ですが、インド神話における神々や英雄、美姫、などがモチーフの作品も多くあります。

つまりインド神話についての知識があれば、より楽しく鑑賞できるようになるでしょう。

そこで今回は奥深いインド神話の世界の「基本のキ」を語っていきたいと思います。

はじめに:日本の国民的アニメやゲームにも息づくインド神話のルーツ

日本の給食で人気のカレーのようにインド文化から影響を受けたものは数多く存在増します。

©任天堂

実は「スーパーマリオブラザーズ」や『ドラゴンボール』、スタジオジブリの『天空の城ラピュタ』、そして『桃太郎』といった日本の国民的ゲームや漫画、昔話、アニメがインド神話に影響を受けていたり、モチーフにしていることが明らかになっています 。

©鳥山明/集英社

インド神話は、インドの歴史や文化をまるっと理解するのに役立つ、非常に興味深い分野です 。

インド神話の成り立ち:バラモン教からヒンドゥー教への変遷

インド神話は、日本の国民的ゲームや漫画のルーツにもなったと言われるほど豊かな物語を持つ、非常に古い歴史を持つ神話です。現在、インドの主要な宗教はヒンドゥー教であり、国民の約8割が信仰しています。しかし、もともとインドの土着の宗教とは異なり、北方から来たアーリア人によってバラモン教という宗教が広められ、そこからヒンドゥー教へと形を変えていきました。

紀元前1500年頃から紀元前1000年頃にかけて、白い肌を持つアーリア人がインドに流入し、先住のドラヴィダ人を支配しました。彼らは「高貴なもの」を意味する「アーリア」と自称し、その支配体制を強固にするために普及させたのがバラモン教です。バラモン教は、社会を厳格な身分制度であるカースト制度に分け、司祭階級であるバラモンを頂点に、クシャトリア(王侯・武人)、ヴァイシャ(一般市民)、シュードラ(奴隷)の4層を置きました。この制度は、原人の体から各身分が生まれたという創世神話によって正当化されました。

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しかし、この権力者に都合の良いバラモン教に対し、民衆の間で不満が高まります。この不満を背景に、カースト制度を否定し、誰もが平等に幸せになれると説く仏教がインドで大流行しました。仏教の台頭は、バラモン教にとって大きな危機となりました。

この状況に対し、バラモン教は「リニューアル」を敢行します。これは、民衆に人気があった土着の宗教や英雄、神々を積極的に取り入れることで、国民のための宗教へとバージョンアップするという大規模な改革でした。この改革を経て生まれたのがヒンドゥー教です。

バラモン教時代に最強とされていた雷神インドラに代わり、ヒンドゥー教では三神一体(トリムールティ)と呼ばれる創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌ、破壊神シヴァが主要な神々となります。特にヴィシュヌとシヴァは、多くの化身(アヴァターラ)や多様な側面を持つことで民衆の人気を集めました。

現地の材料を使って多種多様なカレーを作るのに似ていますね。まさにインド文化の神髄と言えます。

ヒンドゥー教は、叙事詩『ラーマーヤナ』や『マハーバーラタ』といった物語を通じて広まり、現在に至るまでインドの民衆に深く親しまれています。ヒンドゥー教は多様な神々を自由に取り入れ、その教えや物語には矛盾点が見られることもありますが、それが多神教ならではの魅力として受け入れられています。

世界を司る三柱の最高神「トリムールティ」(三神一体)

ヒンドゥー教において最も重視される神々は、創造神ブラフマー維持神ヴィシュヌ破壊神シヴァの三柱であり、「三神一体(トリムールティ)」と呼ばれています。

ブラフマー

インド神話における創造神ブラフマーは、維持神ヴィシュヌ、破壊神シヴァと共に三神一体(トリムールティ)と呼ばれる最高神の一柱です。彼は世界や宇宙の創造を司るとされ、創造後は別神に維持を任せ、世界を見守る立ち位置にあります。多くの場合、4つの顔を持ち、蓮の花や聖典ヴェーダなどを持った老人の姿で描かれ、白鳥に乗ることがあります。

バラモン教時代には宇宙の最高原理「ブラフマン」が人格神化された存在でしたが、その抽象的な性格ゆえに庶民からの広範な信仰は得られず、ヴィシュヌやシヴァに比べて人気は高くありませんでした。ヒンドゥー教においては、神々が困った際に相談する「おじいちゃん」のような助言者の役割を担うことが多いです。また、カースト制度は、ブラフマーが自身の体から各身分を生み出したという創世神話によって正当化されました。

ヴィシュヌ

インド神話において、ヴィシュヌは創造神ブラフマー、破壊神シヴァと共に三神一体(トリムールティ)を成す維持神です。彼は世界や宇宙の秩序を維持する役割を担い、地上に危機が訪れると様々な姿に化身(アヴァターラ)して降臨し、人類を救います。

この「アバターラ」という言葉は、サンスクリット語で「低下」や「効果」を意味しています。

バラモン教時代から信仰されていましたが、ヒンドゥー教の成立後はその地位を確立し、特に化身による活躍が民衆の人気を集めました。叙事詩『ラーマーヤナ』ではラーマ王子として、また『マハーバーラタ』ではクリシュナとして登場し、それぞれ主人公や重要な助言者の役割を担っています。さらに、仏教の開祖ブッダも、ヒンドゥー教が仏教を取り込むための戦略としてヴィシュヌの化身とされています。

ヴィシュヌは通常、4つの手で円盤(武器)、法螺貝、蓮の花、こん棒を持ち、英雄的な風格で描かれます。その万能さと、常に世界を救う正統派ヒーローのような立ち位置から、現在でもシヴァと並ぶ絶大な人気を誇る神です。

また現在のインターネット上の分身の「アバター」という言葉の語源にもなっています。

シヴァ

インド神話において、シヴァは創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌと共に三神一体(トリムールティ)を成す最高神の一柱です。彼は破壊を司るとされますが、その破壊は単なる破滅ではなく、創造や進化のための破壊を意味します。古く不要なものを壊すことで、新しい世界を築くイメージです。

その姿は青い肌で描かれることが多く、眉間には第三の目を持つのが特徴です。これは、妻パールヴァティーのいたずらで目が覆われた際に開眼し、世界を闇に包んだというエピソードがあります。また、彼はヨガの修行僧のような姿で瞑想する姿でヨガの神様として描かれたり、踊る姿で描かれる「舞踏の王(ナタラージャ)」としても知られます。

シヴァは恐ろしい破壊神である一方で、非常に慈悲深く愛妻家という二面性を持つことで民衆から絶大な人気を集めています。海の攪拌の際には、世界を滅ぼす猛毒ハラハラを飲み干して救った逸話もあります。彼の息子ガネーシャの頭を誤って切り落としてしまうという、人間的なエピソードも持ち合わせています。ヴィシュヌと並び、ヒンドゥー教徒から最も信仰される神の一人です。

壮大な英雄譚:二大叙事詩『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』

インド神話には、今日まで民衆に広く愛され、文学や芸術作品の題材とされてきた二つの大叙事詩があります 。

『ラーマーヤナ』

インドの二大叙事詩の一つである『ラーマーヤナ』は、詩人ヴァールミーキによって編纂された長編物語です。この物語の主軸は、維持神ヴィシュヌの化身であるラーマ王子が、魔王ラーヴァナにさらわれた妻シーター妃を救い出すために魔王のいるランカー島(現在のスリランカ)へと乗り込み、戦いを繰り広げます

王位継承の陰謀により国を追放されたラーマは、神々や悪魔にも殺されない力を持つラーヴァナにシーターが奪われます。ラーマは、飛行や変身能力を持つ猿の英雄ハヌマーンをはじめとする仲間たちの助けを得て、ラーヴァナとの壮絶な戦いを繰り広げます。ハヌマーンは「西遊記」の孫悟空や「桃太郎」の猿のルーツとも言われています。

最終的にラーマはラーヴァナを討ち倒しシーターを救出しますが、国民の貞潔を疑う声により、シーターは火に飛び込み潔白を証明します。しかし、その後も疑念が晴れず、シーターは森に追放され、最終的に大地に呑み込まれるという悲劇的な結末を迎えます。

この物語は、大魔王クッパにさらわれたピーチ姫を救い出す「スーパーマリオブラザーズ」や動物の仲間をお供に鬼ヶ島に鬼退治に行く「桃太郎」などの昔話や国民的ゲームのルーツになったとされ、インドだけでなく東南アジア全域で深く親しまれています。

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『マハーバーラタ』

『マハーバーラタ』は、詩人ヴィヤーサによって編纂されたインドの二大叙事詩の一つです。その名は「偉大なバラタ族の物語」を意味し、古代インドのクル王国を舞台に、パーンダヴァ五兄弟とカウラヴァ百兄弟が王位継承権を巡って繰り広げる壮絶な対立と大戦争を主軸としています。この戦いは18日間に及び、多くの神々や英雄が巻き込まれる壮大なスケールで描かれます。

その長さは古代ギリシャの叙事詩『イーリアス』と『オデュッセイア』を合わせたものよりも長く、世界の歴史上最も長い叙事詩とされ、全18巻、約10万詩節からなる大作です。物語にはヒンドゥー教の聖典である『バガヴァッド・ギーター』も含まれ、さまざまな神話、伝説、哲学問答が組み込まれており、古代インド文化の百科事典とも言える内容です。

また『バガヴァッド・ギーター』もヴィシュヌ神の化身であるクリシュナがアルジュナに人生の教えを説くといった哲学書的な側面を持ち合わせています。

「神と人の物語」とも称される『マハーバーラタ』は、その奥深い思想と人間ドラマを通じて、インドの人々に今も深く親しまれている国民的な物語です。

いわゆる、壮大な「大河ドラマ」のような物語と言えます。

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人気を集める多様な神々と英雄たち:その魅力に迫る

インド神話には、主要な神々以外にも個性的で魅力的な神々や英雄が多数登場し、多くの信仰を集めています。

ガネーシャ

ゾウの頭を持つ神で、商売繁盛や学問、富をもたらすとされる人気の神です。シヴァ神とパールヴァティーの息子であり、その出生にはユニークなエピソードがあります。

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ハヌマーン

『ラーマーヤナ』に登場する猿の英雄で、孫悟空のモデルとも言われています。体を小さくしたり巨大化させたり、空を飛ぶ能力を持ち、その忠誠心と勇敢さで知られています。

クリシュナ

ヴィシュヌ神の化身の一人で、絶世の美男子として知られ、多くの女性に慕われたという逸話があります。『マハーバーラタ』では、英雄アルジュナの友人であり助言者として重要な役割を果たします。

ガルダ

ヴィシュヌ神の乗り物である鳥人で 、飛行能力に優れ、タイやインドネシアの国章にも使われるほど人気があります。

サラスヴァティー

ブラフマーの妻で、学問や芸術、音楽の女神です。日本の七福神の一人「弁財天」の起源とも言われています。

ラクシュミー

ヴィシュヌの妻で、美と富と幸運の女神です。日本の「吉祥天」の起源とも言われます。

パールヴァティー

シヴァ神の妻で、ガネーシャの母です。創造と破壊の二面性を持つシヴァのように、時には殺戮の女神カーリーやドゥルガーのような恐ろしい姿も取ります。

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インド神話のユニークな特徴:変化し続ける物語と「推し神」文化

インド神話の大きな特徴は、物語が常に矛盾をはらみ、バージョンが多様に存在し、新しいエピソードが追加され続けていることです。これは、特定の絶対的な教義があるというより、信者がそれぞれの「推し神」(お気に入りの神)を自由に信仰する「推しメンカルチャー」が根付いているためです。

また、神々が人間の姿や動物の姿に変わる「化身(アヴァターラ)」の概念が非常に発達しており、仏教の開祖であるブッダすらもヴィシュヌ神の化身の一つとされています。

これは、仏教の勢力拡大に対して、ヒンドゥー教が自らの教えに取り込もうとした複雑な宗教戦略が背景にあるとされています 。

まとめ:深遠で魅力的なインド神話の世界へ

インド神話は、その広大な歴史と多様な物語、そして現代にも影響を与える普遍的なテーマを持っています。神々の行動や人間との関係を通じて、人生の教訓や哲学が語られ、時には私たちの倫理観を揺さぶるようなエピソードも含まれています 。

この深遠でカオスなインド神話の世界に触れることで、新たな発見と洞察が得られることでしょう。

ここまでの基本的な事がある程度頭に入っていると、インド映画などをより楽しむ助けになるはずです。                                                                                                                                                                                          

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