なんとも「ぶっ飛んだ映画」だという感想がもっとも似合う映画が、今回紹介する「コングレス未来学会議」です。
得も言われぬ不思議な感覚を味合わせてくれます。
◆映画『コングレス未来学会議』公式サイト
作品概要
2013年公開のアリ・フォルマン監督作品。イスラエル、フランスの合作。
また「フォレスト・ガンプ」「ブレードランナー2049」出演の女優ロビン・ライトが本人役で主演。
原作も難解な作品でスタニスワフ・レム(『惑星ソラリス』)著「泰平ヨンの未来学会議」。
ざっくりあらすじ
難病の息子を抱えながら女優として活躍してきたロビン・ライト。
しかし年々出演オファーは減り、暮らしも厳しくなってきていた。
そこに大手映画会社のミラマウント社が「俳優の絶頂期の姿をスキャンしてデジタルデータ化、多くの映画にデータを使用する」という契約を持ちかけてきた。
ロビンは悩んだ末に契約してしまう。
それから20年後。
ミラマウント社のグループ会社ミラマウント=ナカザキが開発した薬物により、誰でもロビンになれるという契約を彼女に結ばせようとする。
果たしてロビンは難病の息子との幸せを取り戻すことが出来るのだろうか?
実写とアニメーションの複合
この映画は実写とアニメーションを使う事により、不思議な感覚と余韻を与える作品です。
アニメーションはミラマウント=ナカザキの開発した薬物を使用している間のシーンに使われています。
つまり高度な幻覚の世界をアニメーションで表現しています。
このアニメーションは極度にデフォルメされたキャラクターがぶにょぶにょ動くアニメになっています。
これはアニメ「ポパイ」などで有名なアニメーターのマックス・フライシャーのタッチを模倣しています。
彼のアニメは、手塚治虫や宮崎駿など、日本のクリエイターにも影響を与えています。
よく観ると手塚治虫作品に出てくるヒゲオヤジもいます。
ある種、単純化されている分だけ想像しやすく、妄想を反映しやすいからだと思われます。
また、薬物による幻覚ということでグニャグニャと定まらない、現実と虚構の境目がわからなくなる感覚を象徴しています。
昔のアニメの何とも言えない不安でさみしい感じに包まれながら、それでいて幻想的で美しいです。
アリ・フォルマン監督は「戦場のワルツ」という作品で自分が従軍した時の事を描いています。
しかしあまりの酷さに記憶がないので、あやふやな記憶を現すためにアニメーションを使用しているそうです。
本作でも薬物による幻覚をアニメーションで表現する手法を取っています。
ブラックな笑い
スキャンの契約をロビンにさせようと迫る時のセリフで「キアヌ・リーブスなんて真っ先にやったぞ、お前も早くやれ」、とけしかけます。
きっとこれは「マトリックス」はキアヌ・リーヴスのデジタルデータを使って撮影されたと言っているのでしょう。
またすでにスキャンされえた女優のデータを使った映像をロビンに見せるシーンでは、バグが修正されていなくて片目だけ不自然に瞬きしてしまいます。
それをみてみんなで馬鹿笑いするという。
序盤はこのようなブラックな笑いが続きます。
とくにロビン・ライトを、実名でけなしまくる叱責シーンは本当にすごいです。
演技や年齢による衰え、若作りの事実、私生活まで完全にダメ出しをします。
まさに毒舌です。笑うに笑えないほどです。
なにしろ実名なので虚実の境目 があいまいで、ドキリとしてしまいました。
リアルの生活でショーン・ペンのDVで結婚生活が破たんしたといわれている彼女。
その彼女に「選ぶ男も全部だめ」とか言ってたりします。
また「プリンセス・ブライド・ストーリー」で映画デビューしたのですが、作中では役が気に入らなくて蹴ったことになっています。
とにかく現実をねじって彼女をいじりまくります。
選択できる自由
女優であるロビン・ライトは自分が出演する映画を選ぶ権利がありました。
しかし契約後はデジタルデータはどんな映画でも出演し、どんな演技もこなします。
つまりロビンには演技をするという事に関してはもう選ぶ事はなにひとつ出来ないわけです。
選択できる自由は失われてしまったのです。
「マトリックス」とは逆の意味での奴隷化です。
皮肉なのは後半、薬物による幻覚のアニメ世界は人々が望めば好きな姿で好きな事ができる世界として描かれています。
ロビンの望んだものが奴隷になる事によって手に入るという、なんとも矛盾した世界構造。
どこまでも自由で何が現実なのか分からなくなってしまう世界。
その中でロビンはひとつだけ確固とした思いがある事に気が付きます。
「息子に会いたい」という思いです。
彼女の最後の選択は「最悪の選択」だったのでしょうか?
俳優不要論に悩まされる俳優たち
映画において俳優の演技は特に必要ないという考え方があります。
名作や傑作といわれる映画のシーンで監督が俳優に演技させないことがあります。
例えば黒沢明がリアルさを追求するあまりに俳優を何時間も歩かせて、本当に疲れさせてから、疲弊したキャラクターが歩くシーンを撮影するとかあります。
現代においてCGでリアルな映像としてなんでも作れてしまうので、キャラクターも作ってしまえばいいわけです。
いわば、俳優がいなくてもCGアニメーターがいれば映画は作れてしまいます。
本作のようにデジタルスキャンデータがあればいつでもどんな映画でも出演させることが出来る上に、どんな演技も自由にさせる事が出来てしまいます。
俳優にとっては恐ろしい世の中になってきているわけです。
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